フッ素Q&A
フッ化物とはなんでしょうか?
一般的に、〜化物というのは水に溶けると陰イオンを生ずる無機化合物のことです。フッ素の無機化合物(例えば、フッ化ナトリウム)が水に溶けると陰イオンであるフッ化物イオンが生じるのでフッ素の無機化合物はフッ化物といいます。
フッ化物イオンは、歯の発育期に採取されることによる全身作用や、萌出後の歯に対する局所作用によって虫歯を予防する天然のイオンです。いわば、フッ化物は自然の恵みと言えます。
フッ素元素は地球の地殻で17番目に多い元素です。フッ素元素は他の元素と結合した形のフッ化物として存在しています。
このフッ化物は岩や土壌のミネラル成分です。水が岩石を通過する時、こうしたフッ化物を溶かしフッ化物イオンを作り出します。
その結果、少量の溶解したフッ化物イオンは海水を含めてすべての水中に存在します。またフッ化物はすべての食物をすべての清涼飲料水にも存在しますが、その濃度はさまざまです。
フッ化物はどのようにしてむし歯を予防するのでしょうか?
フッ化物がむし歯予防に有効な理由は大きく2つあります。1つは歯そのものに対する作用(下記のa)であり、もう1つは歯の周囲の環境としての作用(下記のbとc)です。
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エナメル質結晶の安定化作用
歯の表面はエナメル質という水晶よりも硬い組織で覆われていますが、その構造はハイドロキシアパタイトという燐酸カルシウムの結晶です。結晶構造に欠陥部分があるとフッ化物はエナメル質に作用してその欠陥部分を修復したり、酸に溶けにくいフルオロアパタイトというフッ素元素を含む結晶を生成します。結果的にエナメル質の酸に対する抵抗性を増強し、むし歯を予防します。 -
再石灰化促進作用
むし歯はエナメル質に付着したプラ-ク(歯垢)の中でつくられた酸が、エナメル質中のカルシウムイオン(Ca2+)やリン酸イオン(PO43-)を溶解することで始まりますが、この現象を脱灰といいます。初期の脱灰はエナメル質の表層より少し下から始まるため、ある時期までは表層が残り、一見すると正常であり、ただ白い斑点が生じたように見えます。ところが、その下では脱灰が進行して空洞が大きくなり、食事などの外圧によって最表層が陥没して穴があくのです。こうなると口腔細菌の感染が起こり立派にむし歯です。しかし、表層のエナメル質が残っているまだ感染していない初期の脱灰の状態では、カルシウムイオンやリン酸イオンが豊富な唾液などが作用して、脱灰によるカルシウムイオンやリン酸イオンを元の状態にもどす作用が期待できます。この現象を再石灰化といいますが、歯の周囲の唾液などに存在しているフッ化物は、この再石灰化を促進する作用をもっているのです。 -
プラーク細菌に対する抗菌作用
フッ化物は、プラーク中に生息しているむし歯の原因菌の酵素の働きを阻害したり、酸を産生する能力を抑制してむし歯を予防します。
自然界にフッ化物はどれくらい存在しているのでしょうか?また、自然界のフッ化物とむし歯予防に使用するフッ化物は同じものでしょうか?
フッ化物は火山活動の結果生じるマグマに由来しているため、地球上のあらゆる場所に存在しています。したがって、岩石中にはフッ化物として平均100〜1,000ppm(0.1〜1.0g/㎏)、海水中には1.3ppm(1.3㎎/l)、そして地表水中には0.01〜0.3ppm程度存在しています。ちなみに、水道水フッ化物濃度調整(水道水フッ化物添加、水道水フッ化物濃度適正化、水道水フッ化物濃度調整)による水道水フッ化物濃度は海水のフッ化物濃度より少し低い1.0ppm前後に調整されます。(わが国では,水道法によって0.8ppm以下に制限される)。むし歯予防によく用いられるフッ化ナトリウム(NaF)は、天然の岩石であるホタル石や氷晶石から精製されるものですから自然のフッ化物そのものです。
体内に入ったフッ化物はどうなるのでしょうか?
口から摂取した食品などの固形物に含まれるフッ化物は吸収され難いものが多く、腸を通って糞便として排泄されます。水溶性のものは吸収率が高く、主に胃・小腸で吸収が行われ、歯や骨などの組織に沈着するもの以外はほとんどが尿として排泄されます。
成人の場合、摂取されたフッ化物の90 %以上は糞や尿を中心に、残りは汗や唾液などから体外に排泄されます。排泄されなかったフッ化物は、血液を介して体内の硬組織(骨・歯など)や軟組織に移行しますが、軟組織にはほとんど沈着しません。また、いったん骨などに沈着したフッ化物も永久的に蓄積するのではなく、骨の代謝と共に血中に戻り、尿中に排泄されます。
しかし、小児の場合は、骨の成長や歯の形成など発育過程で生体がフッ化物を必要とするため、吸収されたフッ化物の40%ぐらいが血液を介して生体に利用されます。
食品にフッ化物はどれくらい含まれているのでしょうか?また、むし歯を予防するには毎日どれくらいのフッ化物が必要なのでしょうか?
フッ化物は、ほとんど全ての食品に自然に含まれています。主なものを表に示します。
むし歯予防に使用されるフッ化物の適量は年齢や体重により異なりますが、米国政府の食品栄養局では、歯の健康を保つために必要なフッ化物の1日当たりの適正摂取量を体重1㎏当たり0.05㎎としています。
また、健康に悪影響を及ぼすことのない1日の摂取許容上限レベルは、小児から8歳までが体重1㎏当たり0.10㎎で、それ以上、9歳以上の年齢の子どもや成人では、歯のフッ素症の心配がないので体重に関わらず1日10㎎としています。
フッ化物は必須栄養素なのでしょうか?
はい、WHOなどの専門機関はフッ化物を必須栄養素として位置付けています。われわれが健康な生活を維持していくためには三大栄養素〔タンパク質、脂質、糖質〕と微量栄養素〔ビタミン類、無機元素類(ミネラル)〕が必要です。
WHO(世界保健機関)とFAO(食糧農業機関)は、1974年に「ヒトの栄養所要量の手引書」の中で、フッ化物を必須栄養素として位置づけ世界各国に紹介しています。
また、身体を構成する元素の存在量により、主要元素と、微量元素に分類されます。この微量元素のうち、生命と健康の維持に欠かすことのできない元素で必ず摂取しなければならないものを必須微量元素といいます。フッ化物は多分必須微量栄養素であると考えられています。
「多分」という不確かな言葉がつく理由は次のようなものです。フッ化物はすべての自然の原材料による飲食品に含まれているため、ヒトにフッ化物の完全欠乏症が生じることはありません。フッ化物は自然界に広く分布し、われわれが日常的に摂取しているすべての飲食物に含まれているため、好むと好まざるとを問わず、まったく摂取しないというのは不可能なのです。仮にフッ化物をまったく含まない食事で生活した場合には、生命の円滑な活動は損なわれ、特に歯や骨の健康を中心に健康が破綻すると考えられています。
一方、哺乳類にフッ化物欠乏食を与え続けると、成長が阻害されたり、寿命が短くなるという実験結果があります。哺乳類を用いた実験によって必須性が証明されたことから、「多分」をつけた「必須微量栄養素」を用いているのです。
フッ化物はどういうものなのでしょうか?食品に含まれているところをみると、カルシウムなどと同じと考えていいのでしょうか?
フッ素(F)は、カルシウム(Ca)や鉄(Fe)、炭素(C)、酸素(O)などと同じく元素です。
元素は地球上に約100種類ほどありますが、その中でもフッ素は多い方で、土壌中には200〜300ppm、海洋中には1.3ppmで14番目に多い元素となっています。当然ながら、そこからとれる野菜、果物、魚介類などには自然に含まれています。その他、肉、お茶、塩、ビールなど、あらゆる飲料物がフッ化物を含んでおり、それらを食べたり飲んだりしている私たちの身体の中にもフッ化物は取り込まれ、体の構成要素にもなっています。特にカルシウムと仲がよく、カルシウム成分の多い骨や歯に多く含まれています。身体全体で平均すると、体重1キログラム当り42.8㎎(=42.8ppm)のフッ化物が含まれていることになります。
カルシウムでもフッ化物でも、量が多すぎれば害作用が現れ、少なすぎても有害な影響が出てきます。フッ化物でも、カルシウムと同じように適当な量を摂取することによって健康が維持出来る栄要素の一つと考えられ、とくに成長期の子供にとっての歯や骨の栄養素と位置づけられています。
アメリカ栄養士会では1995年に引き続き、1998年にも重要な健康増進手段として水道水フッ化物濃度調整を含めて、全身的及び局所的なフッ化物を使用するよう推奨する見解を表明し米国下院で承認されています。わが国では、フッ化物は必須栄養素として摂取基準値は設定されていませんが、フッ化物を含んでいても1日あたりの摂取量が4㎎以下であれば、食品として取り扱うことが出来ます。一方、「必須栄養素」とは生物の生存に不可欠のものと定義した場合、そのような証明が出来ていないことから、「有益元素」との呼び方(米国公衆衛生局)もあります。フッ化物があらゆる食品に普遍的に存在し、動物が生存できない程度の低フッ化物食品が作れないためです。
フッ化物利用によって歯が強くなるということは、骨も強くなるのでしょうか?
フッ化物療法によって骨密度が増すことは確かめられています。また、適正なフッ化物濃度飲料水を使用している人に骨折が少ないということが最近の疫学研究で分かりました。
つい最近になるまで、水道水フッ化物濃度調整を行っている地域と行っていない地域での比較で、骨密度や骨折の頻度に有意な差を確認できませんでした。しかし、高齢者で骨の弱くなった者を対象とした治療的フッ化物療法では、以下のように骨を強くできるとの報告があります。
1)骨の強化と骨折の予防におけるフッ化物の役割についてADA(アメリカ歯科医師会)は「水道水フッ化物濃度調整ファクト」の中で以下のように述べています。
この30年間、骨粗鬆症の治療の実験療法として、主に徐放性のフッ化ナトリウムによるフッ化物が用いられてきました。フッ化ナトリウム療法はフッ化物に骨の喪失を減らしたり、現存の骨量を増やしたり、また、骨折を予防する作用があるために用いられてきました。臨床試験の結果は、次に示す2つの調査が示しているように結果は一定ではなく、さらなる調査の必要性が示唆されます。
①1995年、4年間の臨床試験の最終報告で、フッ化物には骨量の増加を助ける働きがあることがわかりました。この調査は、閉経後の骨粗鬆症の女性で徐放性のフッ化ナトリウム(1日2回25㎎投与)とクエン酸カルシウム(1日2回400㎎投与)を4年間(12ヶ月治療を受け、2ヶ月は治療を受けないという)14ヶ月サイクルで摂取を繰り返してきた人たちの結果です。この結果この治療は安全で、新たな脊椎骨骨折を減らし、脊椎骨の骨量の増加に効果があるという結論を得ました。
②50人の閉経後の女性における6年間の臨床試験では、フッ化ナトリウムとカルシウムの補足治療は骨粗鬆症の治療に効果が無かったようです。
2)2001年にコクランライブラリーに登録されたフッ化物療法が閉経後の女性の骨密度、椎骨ならびに椎骨以外の骨折、副作用にどのような効果をもたらすかについてのシステマティックレビュー(全世界の論文を収集し、科学的にそれらの論文を批判的吟味した結果のまとめ)でも以下のような結論を出しています。フッ化物療法によって腰椎の骨密度が増加しますが、腰椎の骨折率は変わらないようです。フッ化物の用量を増加させると椎骨以外の骨の骨折率と胃腸の副作用が増加しますので、適量の摂取が必要です。
ところが最近になってきわめて重要な所見が示されました。すなわち、適正フッ化物濃度飲料水を使用している人に骨折が少ないということが最近の大規模な疫学研究で分かったのです。
最近、2001年に発表された整形外科領域の疫学研究論文で、種々のフッ化物濃度の飲料水を少なくとも25年以上常用してきた50歳以上の高齢者8,266人の骨折に関する研究結果が発表されたのです。それによると、フッ化物濃度の低すぎる飲料水や反対に高すぎる飲料水を常用してきた人では骨折頻度が高く、フッ化物濃度約1ppmの飲料水を常用してきた人で骨折頻度が最も低いことが判明したのです。ここで大切なことはフッ化物濃度1ppmというのはむし歯予防で最も効果的な濃度とされてきた濃度です。すなわち、歯を強くするフッ化物濃度の飲料水は骨も強くするということです。
日本人のフッ化物の1日許容摂取量は何㎎で、その安全量はどれくらいなのでしょうか?
歯のフッ素症や骨フッ素症などの慢性の副作用を生じることのない許容摂取上限値は、1〜3歳で1.3㎎、4〜8歳で2.2㎎、9歳以上で10㎎です。また、副作用を生じることなく最大のむし歯予防を発揮するフッ化物の適正摂取量は体重1㎏あたり1日に0.05㎎となっています。
参考値として、アメリカの医学研究所食品栄養局(Food and Nutrition Board of the Institute of Medicine)が1997年に発表した栄養所要量があります。これによれば、集団の97〜98%において歯のフッ素症や慢性の副作用を生じることのない許容摂取上限値は、1〜3歳で1.3㎎、4〜8歳で2.2㎎、9歳以上で10㎎です。また、副作用を生じることなく最大のむし歯予防を発揮するフッ化物の適正摂取量は1日に0.05㎎/体重1㎏となっています。これによると体重65㎏の成人男性では3.25㎎が適正摂取量であり、過去において報告されている日本人のフッ化物摂取量(およそ0.48〜2.8㎎)は少ないといえます。
水分摂取量や食物からのフッ化物の摂取量には個人差がありますが、安全性が問題になることはありません。
アメリカ医学研究所食品栄養局によるフッ化物の適正摂取量は1日0.05㎎/㎏ですから、体重65㎏の成人では3.25㎎となります。また、1日の摂取量の上限値は成人で10㎎となっています。日本人では食品による1日のフッ化物摂取量が0.4〜1.8㎎とされていますから、0.8ppmに調整された水道水を1日1.5リットル飲んでもフッ化物の総摂取量は1.6〜3.0㎎となり、他の飲食物からの摂取量に多少の差があっても上限値を超えるものではなく、問題はありません。
フッ化物によるむし歯予防はいつ頃から始まったのでしょうか?
水道水フッ化物濃度調整の歴史が最も古く、米国およびカナダにおいて1945 年に始められ、すでに60年になろうとしています。
フッ化物歯面塗布、フッ化物洗口、フッ化物配合歯磨剤という局所応用もその数年後から開始されていますので、むし歯予防のためのフッ化物応用としては、すでに半世紀以上が経過したといえます。ところが、歯科界がフッ化物と出会ったのはさらに古く、1900年代初頭にイタリアのナポリ付近でフッ素症歯(斑状歯)と呼ばれる歯が集団的に発見されたのがきっかけでした。それから間もなくして、アメリカのコロラドスプリングスでも、Mckayという歯科医師がほとんどの地域住民にフッ素症歯が認められることに気付いて調査をしました。その結果、飲料水に含まれるフッ化物が原因でフッ素症歯が発症することが分かり、その当時は、フッ化物は歯にとって有害なものとみなされていました。ところが、一方では、フッ素症歯はむし歯にかかりにくいことも判明し、適量であれば歯にとって有益であることがわかりました。その後の様々な調査や研究から、フッ化物によるむし歯予防効果が確認され、1940年代にはアメリカとカナダにおける水道水フッ化物濃度調整計画によるむし歯予防が開始され、その効果と安全性が証明されました。現在では、世界中の多くの国々と地域において、様々な種類のフッ化物応用が実践され、むし歯予防に貢献しています。
フッ化物によるむし歯予防手段にはどのようなものがあるのでしょうか?
大きく分けると2 つあります。1つは、水道水フッ化物濃度調整、フッ化物添加食塩、フッ化物添加ミルク、フッ化物補給剤(錠剤や液剤)という方法で、フッ化物を摂取する全身的応用法です。もう1つは、フッ化物歯面塗布、フッ化物洗口、フッ化物配合歯磨剤という方法で、フッ化物を歯に直接適用する局所的応用法です。これらを組み合わせて応用することが推奨されています。
このうち、地域などで集団的に応用する公衆衛生的方法には、水道水フッ化物濃度調整や学校などでおこなうフッ化物洗口が適しています。歯科診療所では歯科医師や歯科衛生士という専門家が行うフッ化物歯面塗布が、家庭では集団でのフッ化物洗口が応用されていない場合の個人応用としてのフッ化物洗口や、最も手軽で普及しているフッ化物配合歯磨剤を用いた歯口清掃などが適しています。他に、日本では販売されていませんが、諸外国では日常の食事で使用する食塩やミルクへのフッ化物添加やフッ化物補給剤としてのフッ化物錠剤なども利用されています。
いろいろなフッ化物応用法を組み合わせることは有効なのでしょうか?
はい、いろいろなフッ化物応用法を組み合わせることは有効です。
日常的にフッ化物配合歯磨剤を使用し、毎週学校でのフッ化物洗口法を実施することは実際的です。また、水道水フッ化物濃度調整を実施している地区で、フッ化物配合歯磨剤を使用することによる加算的効果も確認されています。また、特にう蝕リスクの高い人の場合、それらの方法に加えフッ化物歯面塗布を併用することも勧められます。1つの方法だけではフッ化物の利益を完全に得ることが出来ないからです。しかし、2つ以上の全身応用法を併用することはフッ化物の摂取量が過量になるので避けなければなりません。水道水フッ化物濃度調整、食塩のフッ化物添加、フッ化物錠剤やドロップ(滴下剤)等、いずれか1つの全身応用法を選択します。また、それら全身応用法が普及している国々では、費用や手間の面から、学校施設単位でのフッ化物洗口法は行われない傾向にあります。
フッ化物応用の際に歯口清掃は不可欠なのでしょうか?
いいえ、フッ化物応用に際し、歯口清掃は必ずしも不可欠な前処置とはいえません。フッ化物のむし歯予防率は、歯垢があってもないときと同様であり有効です。
清掃が困難な歯面、隣接面や咬合面においてもフッ化物による効果は確認されています。応用されたフッ化物は、速やかに歯垢中にしみ込んで多くはフッ化カルシウムとして貯蔵され、甘い物を飲食などで歯垢中の環境が酸性に傾き、う蝕リスクが高くなると、歯垢中のフッ化カルシウムは解離してフッ化物イオンとなり、フッ化物によるう蝕予防のメカニズムが活発になるからです。しかし、う蝕の発生はフッ化物の作用が大きいか小さいかだけで決まるものではありません。う蝕は歯垢の付着した歯面において発生するものであり、歯口清掃はフッ化物応用と合わせて歯科保健指導の際に組み合わせておこなうことが勧められています。
フッ化物でむし歯にならないのはどうしてですか?コーティングされているのでしょうか?
フッ化物の主な作用はエナメル質の表層での「脱灰―再石灰化」作用に関与しています。歯の表面からカルシウムやリン酸が溶け出してむし歯になりやすい状態の時(脱灰が起こっている時)フッ化物があるとカルシウムやリン酸がすみやかに歯の表面に沈着(再石灰化)し、初期むし歯への前駆的変化(脱灰)がすすみにくくなります。
また、歯が顎の中で作られる時(永久歯では8歳ぐらいまで)に適量のフッ化物を摂取していると、歯の構造の中にフルオロアパタイトというフッ化物を含んだ結晶ができて、むし歯に対して抵抗力のある丈夫な歯になります。さらに、微量のフッ化物には殺菌作用はほとんどありませんが、歯の表面の歯垢の中にフッ化物が高い濃度で含まれる場合(水道水フッ化物濃度調整(1ppm)でも歯垢中のフッ化物濃度は数十ppmになることが知られています)、歯垢中の細菌の活動を抑制し、むし歯の原因になる細菌による酸の産生を抑えます。
フッ化物が足りないからむし歯になるのでしょうか?
フッ化物量が不足すると、むし歯の発生リスクが上昇します。
一般に、細菌性疾病に罹る原因としては病原菌の作用、宿主要因(人の免疫などの抵抗力)及び環境要因の3つで説明されます。
むし歯の発生は、むし歯原因菌の存在が必要条件(病原菌の作用)となり、発生のための十分条件となる歯の感受性(歯のむし歯への罹り易さ)と唾液の性質にかかわる条件(宿主要因)、またむし歯菌のエネルギー源となる砂糖類の存在にかかわる条件(環境要因)によって決まってきます。その点フッ化物は、主に宿主要因として歯の感受性や唾液の性質の条件に関わり、フッ化物の存在によってむし歯発生の感受性を低下させる働きをします。そのようなことから、飲料水中のフッ化物の量が不足すれば、むし歯の発生を抑制できる条件が低下します。元来、生体での石灰化にはフッ化物の存在は不可欠であり、この点からみればフッ化物が足りないことがむし歯になる原因といえるのです。
同じむし歯予防なのに、フッ化物スプレーは100ppm、フッ化物洗口では毎日法で225ppmと週1回法で900ppm、フッ化物配合歯磨剤では1000ppm、フッ化物塗布で9000ppm、水道水フッ化物濃度調整では約1ppmというふうに、なぜフッ化物の濃度が異なるのでしょうか?何がどんなふうに作用して、むし歯を防ぐのか、そのメカニズムを教えて下さい。
この質問は二つに分けられます。一つはフッ化物イオンの濃度の違い、もう一つはフッ化物の作用機序(メカニズム)です。
1)フッ化物イオン濃度とその使い分け
フッ化物イオン濃度と応用法の関係は表のようになります。基本的には、使用回数が少ないものが高濃度、使用回数が多いものが低濃度になっています。また、全身的応用法(例:水道水フッ化物濃度調整)では低濃度、塗布法などの局所応用法で高濃度、洗口(うがい)はその中間的濃度になっています。
そもそもう蝕予防のためのフッ化物応用は、自然の飲料水中に存在していたあるフッ化物濃度(約1ppm)のとき、そこに住む人々のう蝕が最も少なくフッ素症歯などの有害作用がないという疫学調査の結果を基に水道水フッ化物調整が開発されたことからも分かるように、全てのフッ化物応用法は、その至適濃度での人のフッ化物摂取量を基にして開発されたものです。このことからも分かるように、フッ化物の応用法としては、低濃度のものを頻回に使用するものがより自然であり、安全であり効果的で、この点からも水道水フッ化物濃度調整は最も好ましい方法とされています。
2)フッ化物のむし歯予防作用(メカニズム)
フッ化物のむし歯予防作用は大きく分けて次の三つに考えられます。これらはフッ化物応用法には関係のない共通の働きです。
①酸に解けにくい丈夫な歯を作る働き
むし歯を発生させる細菌は砂糖などの糖類 (炭水化物)を利用して酸を作り歯を溶かして感染し、虫歯をつくります。顎の中で歯ができつつあるときも、また萌出後でも、フッ化物は酸に強い歯を作り、丈夫な歯にします。
②初期むし歯を修復する働き
フッ化物はむし歯の前駆状態である脱灰部位を修復する働きがあり、これは初期むし歯を修復すると言い換えてもいいかもしれません。
③むし歯菌の作用を抑える働き
高濃度のフッ化物はむし歯細菌の働きを抑える働きがあります。むし歯細菌の生息場所である歯垢中ではカルシウムが多いためフッ化物濃度が高くなる傾向があります。最もフッ化物濃度が低い水道水フッ化物調整でも、歯垢中では数十ppmという高いフッ化物濃度になることが知られています。
フッ化物を摂り過ぎた場合にどのような害があるのでしょうか?
いかなる薬や物質あるいは必須栄養素であっても、過剰に摂り過ぎれば生体にとって有害になります。フッ化物についても同じであり、摂り過ぎた場合には有害な作用があります。
その顕著な例として中毒について考えると、慢性中毒と急性中毒の2種類に分けられます。
慢性中毒あるいはその後遺症として、多くは天然の高いフッ化物濃度の飲料水を日常的に長期間飲用しつづけた場合に現れるもので、骨フッ素症と歯のフッ素症が知られています。
骨フッ素症はフッ化物の粉塵やガスにさらされている工員や、自然の高濃度のフッ化物飲料水(6〜8ppm以上)地域に長年(10〜20年以上)居住していた住民の一部にみられるもので、骨密度の増加が脊椎骨から他の骨群に現れてくる病態を示すものです。骨硬化症とも呼ばれ、症度の高いものは、すべての骨群の骨硬化と靭帯の石灰化ならびに骨の異常突出がみられるもので、かつては運動障害性の骨フッ素症の例が知られていました。現在でもインドでは牛などの家畜にみられるとの報告があります。
歯のフッ素症は、あるレベル(2ppm)以上の自然のフッ化物飲料水を歯の石灰化期(満8歳まで)に長期間摂取した場合に生じるもので、歯(とくにエナメル質)の形成障害という組織異常を特徴としています。飲料水のフッ化物濃度に応じて、審美的にも全く問題がなく専門家でなければ見分けられないようなごく軽度のものから、歯のエナメル質の一部が欠けて、茶などの渋が付着して褐色の醜い重度のものまであります。
水道水フッ化物濃度調整をはじめとするフッ化物の全身応用により、フッ化物摂取が多くなりすぎていないかを監視するには、歯のフッ素症の発現程度を調べればわかります。アメリカやカナダなどでは、水道水フッ化物濃度調整に重ねていくつものフッ化物応用が行なわれ、それによって、歯のフッ素症が増加しているという報告があります。そのほとんどはごく軽度の症状で審美的にも問題にならない程度のものですが、それらの国々では、原因として幼児がフッ化物配合歯磨剤を食べることが指摘されており、歯磨剤は食べないようにという指導がなされています。
急性中毒は、フッ化ナトリウムとでんぷんをとり違えて料理に使用したというような事故などで多量のフッ化物を誤って一度に摂取した場合に起こったことがあります。このような場合の急性中毒では、悪心、おう吐、下痢という症状が現れます。多量のフッ化物を摂取した場合には、すぐにおう吐させたり牛乳を飲ませるといった応急処置を行い、直ちに医師に診察してもらう必要があります。
ただし、急性中毒は、通常のむし歯予防でのフッ化物の使用とは関係のないことです。誤って1回分のフッ化物洗口液を全部飲んだとか、歯ブラシにつけたフッ化物配合歯磨剤を飲み込んでも中毒は起こりません。フッ化物の急性中毒の発現閾値は体重㎏あたり5㎎というのが現在の国際的な基準になっています。これによれば、4から6歳児の体重が20㎏とすれば、急性中毒の発現閾値はフッ化物量100㎎であり、これは毎日法の5㎎使用のフッ化物洗口法では一度に80人分から100人分の洗口液を一度に飲み込んだことに相当します。明らかに、急性中毒は、通常のむし歯予防でのフッ化物の使用とは関係のないことです。
大気、水および食品から摂取するフッ化物の総量は、健康に危険を及ぼす事はないのでしょうか?
大気、水および食品から摂取するフッ化物の総量は、フッ化物応用を行っていない地域はもちろん、適切な方法と組合せでフッ化物応用がなされている地域では健康に危険を及ぼすようなことはありません。
ほとんどの地域における大気中のフッ化物は非常に低く、問題のないものです。ただし、特殊なケースとして、アルミニウム精錬工場などフッ化物系ガスを排出する場所で働く人たちは、環境中のフッ化物濃度の管理に注意する必要があります。
またフッ化物濃度調整した水道水を摂取していても問題はありません。ただし、井戸水には、自然のままで高濃度のフッ化物を含むものもありますから、飲用や調理に使用する場合は水質検査を行うことが必要です。
食品のうち、日本の食生活によく用いられる海産物には比較的高濃度のフッ化物が含まれています。また海水にはフッ化物が含まれているため、天然塩にはフッ化物が高濃度に含まれています。ただし、魚介類を多く食べるケースであっても、フッ化物を多く含む殻やうろこ、骨まで食べるわけではありません。
現在日本で用いられている食塩の多くは化学的に製造されフッ化物濃度の低いものが主流です。従って食品全体でみるとフッ化物の摂取量は他の国々と変わりません。
以上を総合すると、大気、水および食品から摂取するフッ化物の総量は、適切な方法でフッ化物応用されている地域では、保健上問題がないという結論になります。食品から摂取するフッ化物は生物学的利用能が低く、生体への生理的作用が弱いので、ほとんど問題になりません。常に問題となるのは飲用水ということになります。自然のままの多くの飲用水はフッ化物濃度が低過ぎるか、または高すぎるのです。この点からも水道水はフッ化物調整をするのが優れた環境対策となるのです。
フッ化物は海水にも含まれているそうですが、魚を食べる人間の体内で濃縮される事はないのでしょうか?
人間の体内で濃縮されるようなことはありません。
海水には、1リットル当たり1.3㎎のフッ化物が含まれていますので、フッ化物濃度としては1.3ppmになります。
海水のフッ化物濃度のほうが、水道水フッ化物濃度調整のフッ化物濃度(0.7〜1.2ppm)よりやや高いのですが、魚などの生態系に異常を及ぼすものではありません。海水のフッ化物濃度は非常に安定しています。たとえば、日本で一番長い信濃川は1日の流量は6,089万トン、そのフッ化物濃度は約0.1ppmですから一日でおよそ6トンのフッ化物が日本海に流入している計算になります。ところが、海には自然の平衡能が備わっていて、海水のフッ化物濃度が変動することはありません。少なくとも6億年以前から海水のフッ化物濃度1.3ppmに変化はないのです。
また、魚や海藻などの海産物のフッ化物濃度は比較的高く、これらの食品を多く摂取すれば、同時にフッ化物も多く摂取されることになります。ところが、摂取された食品成分のすべてを生体が利用するわけではありません。生体が利用できるのは、摂取された食品のうち胃や腸で吸収される成分だけです。しかも、フッ化物は主に魚の骨やエビの殻に多く含まれますので、もともと食べないか、摂取したとしても、吸収率が低いため大便中に排泄されてしまいます。こうした食品中のフッ化物はいわゆる生物学的利用能が低いのです。
フッ化物は人間の骨格系に年齢と共に濃縮されると聞きましたが本当でしょうか?骨折が増えることはないのでしょうか?
人の骨格系のフッ化物濃度は年齢の上昇と共に高くなります。しかし、それはむし歯予防でフッ化物を使用するかしないかに関わらず起こる自然現象であり、生理的な変化とされています。また、適正フッ化物濃度飲料水を使用している人に骨折が少ないということが最近の研究で分かりました。
吸収されたフッ化物は主として骨格系に移行し、年齢と共に骨中のフッ化物濃度は上昇します。しかし、極端に濃度の高いフッ化物飲料水を常用しない限り、骨格系の健康には問題は生じないのです。すなわち年齢の上昇にしたがって骨のフッ化物濃度が高くなるのは生理的な現象として解釈されているのです。
それどころか、最近、2001年に発表された米国国立衛生研究所(NIH)が援助した整形外科領域の研究論文で、フッ化物の人工的な使用のない中国郡部の住民8,266人を対象にした疫学調査が注目されています。この種々の常用飲料水のフッ化物濃度と高齢者の骨折に関する研究から、フッ化物濃度の低い飲料水(0.25-0.34ppm)や反対に高すぎる飲料水(4.32-7.97ppm)の常用で骨折頻度が高く、むし歯予防で最も効果的な濃度とされてきた1ppm前後(1.00-1.06ppm)で骨折頻度の最も低いことが判明したのです。しかし、この現象は決して偶然ではないのです。この研究は飲料水中のフッ化物濃度には生理的に最も好ましい濃度が存在することを示したものであり、栄養としてのフッ化物の生理作用を表したものとしてとくに注目に値するものです。
大人と子どもではフッ化物の吸収の度合いが違うようですが、身体に蓄積されても大丈夫なのでしょうか?
私たちの身体は一生涯、適量のフッ化物を摂取し続けたときに最も良い健康状態が得られるとされています。骨格系以外では体内のフッ化物レベルには大きな変動がなく、しかも、多少の過不足があっても問題がないという許容力を持っているのです。
大人は、骨の成長も止まり、歯の形成も終わっていますから、吸収されたフッ化物の90%以上が尿中に排泄されます。少量のフッ化物は骨に沈着されますが、骨の代謝にともなって前から骨に蓄積されていたフッ化物は血中へと出て行き、骨中のフッ化物は少しずつ入れ替わっているのです。
子どもの場合は、骨の成長、歯の形成にフッ化物は利用され、排泄されるフッ化物は約60%と大人に比較すると少なくなっています。しかし、成長期を過ぎると大人と同様にほとんどのフッ化物を排泄することとなります。つまり、フッ化物は私たちの身体で成長に合わせて生理的にコントロールされている元素といえるでしょう。
塩素は沸かすと空中に出てゆくが、フッ化物は水に溶けたままで濃縮されると聞きました。毎日水道水フッ化物濃度調整による沸かした湯を飲んでいると身体に蓄積して害になる事はないのでしょうか?
害にはなりません。
「濃縮」されるという言葉にだまされてはいけません。煎じ薬のようにグツグツ煮詰めたものを毎日大量に飲むというのならば、フッ化物に限らず、いろんな物質が濃縮されて有害作用も出るかもしれません。しかし、例えば、普通にお湯を沸かして10%ぐらいの水が蒸発したとしても(実際には1、2%に過ぎないが)、1.0ppmのフッ化物イオン濃度は1.1ppmになる程度のものです。
一般的に言っても、水道水フッ化物濃度調整のような公衆衛生手段には、それほど厳密性が要求されるものではなく、かなり幅のある融通性がなければ採用できないものです。こうした考え方は、ほかのほとんどあらゆる公衆衛生手段についてもいえることで、常識と考えていいでしょう。
フッ化物は食物や水の中に入っていますが、どれくらいのフッ化物を摂ると害になるのでしょうか?
毎日摂取するフッ化物の量は、年齢や体重によって違います。他の栄養素と同じように、栄養学が進んでいるアメリカやEU(欧州連合)では、許容上限摂取レベルが示されています。以下の表を参考にして下さい。
フッ化物の許容上限摂取レベルは幼児、小児から8歳まで、体重1㎏当たり1日0.10㎎に設定されています。それ以上の子どもや成人では、もはや歯のフッ素症の心配は無く、フッ化物の許容上限レベルは体重に関わらず1日10㎎に設定されています。
すなわち、8歳までは許容上限レベル以上だと歯のフッ素症の心配がでてきますが、9歳以上では歯のフッ素症の心配は無くなりますが次の骨硬化症が心配されます。こうした意味ではフッ化物摂取は幅広い安全域があるといえます。
フッ化物洗口や歯磨き剤と水道水フッ化物濃度調整を併用しても大丈夫なのでしょうか
水道水フッ化物濃度調整以外にフッ化物全身応用を実施していないこと、上手にうがいができるという条件であれば、フッ化物配合歯磨剤を併用することをお奨めします。また、むし歯になりやすい年齢の集団や個人には、さらにフッ化物洗口を重ねて併用することをお奨めします。
フッ化物の全身応用とは水道水フッ化物濃度調整、フッ化物錠剤、フッ化物添加食塩、フッ化物添加ミルクなどの方法でフッ化物を摂取することであり、適正摂取量がコントロールされているので1つの方法だけを選択します。ちなみに、優先順位が高いのは水道水フッ化物濃度調整です。
フッ化物の局所応用とはフッ化物洗口、フッ化物配合歯磨剤、フッ化物塗布などフッ化物を歯の表面に作用させる方法のことをいいます。こちらは、作用させた後吐き出すので、摂取される量はごく少量です。
したがって、局所応用が正しく行える場合(フッ化物の洗口剤や歯磨剤を飲み込まない、フッ化物洗口後吐き出せる等)であればフッ化物の全身応用と局所応用の組み合わせ、また局所応用法同士の組み合わせが可能です。
フッ化物を併用しない場合の歯磨きやキシリトールによるむし歯予防効果は、それぞれどれくらいあるのでしょうか?
「規則正しい歯磨き習慣によりむし歯が減少するだろう」という期待は妥当と考えられますが、家庭で行っている歯磨き程度では、むし歯が効果的に予防できるという事実はありません。しかし、家庭での歯磨きに2年から3年間継続してフッ化物配合歯磨剤を併用すれば、併用しないときに比べ25から30%のむし歯予防効果が期待できます。
またキシリトールは、わが国では1997年4月に食品添加物として認可され、砂糖の代用甘味料としてガムなどで広く使用されています。ただしキシリトールは食品添加物として認可された糖アルコールであって、むし歯予防を目的とした医薬品類ではありません。
糖アルコールにはキシリトールの他、ソルビトールやマルチトールなど代用甘味料はたくさんありまが、これら糖アルコール類はいずれも砂糖と較べて口腔内細菌によって産生される、むし歯の原因となる酸を発生し難い甘味料でありますが、それ以上のものでも、それ以下のものでもありません。以前フィンランドで、日常生活で使用するすべての砂糖の代わりにキシリトールを2年間使用した研究がありました。この研究期間中に、新しいむし歯はほとんど発生しなかったそうですが、これは当然のことで、その効果はキシリトールの効果というより砂糖を使用しなかったことによるものと解釈されています。わが国でも、ほとんど砂糖のなかった第二次世界大戦中の子どもたちは、ほとんどむし歯が発生しませんでした。
また、日常生活で使用するすべての砂糖の代わりにキシリトールを使用するということ自体が一般には無理なことです。キシリトールは多量に食べると下痢を起こすし、ケーキなどでは砂糖の持つ付形作用(硬さや粘りによって形を整える作用)が必要であり、キシリトールでケーキを造ることは不可能なのです。
また、現在、日本では砂糖の使用量は一人年間約27㎏であり、その費用は年間約3,000〜5,000円程度であるのに対して、キシリトールは砂糖とほぼ同じ甘さですから、これを仮にキシリトールで摂るとするとその費用は砂糖の10〜20倍になると計算されます。ほとんどガムやキャンデーでの使用に限られる甘味料と考えるべきでしょう。今までむし歯の予防効果が証明されたとする報告論文を元にすると、キシリトールの場合、1日5〜10gが必要です。これをガムで摂るとすると、1日10〜22粒で、年間の費用は9万円〜18万円になります。これに較べて、はるかにはっきりとした虫歯予防効果が立証されているフッ化物洗口での年間費用は数百円から数千円、水道水フッ化物調整では数十円のレベルであり、フッ化物応用はキシリトールに較べて10分の1から1000分の1の経費であるという計算結果がえられます。
フッ化物とキシリトールやリカルデントとのむし歯予防効果の違いは何なのでしょうか?
再石灰化された歯質を比較すると、キシリトールやリカルデントによる場合に比較してフッ化物による再石灰化は歯のエナメル質に強い耐酸性をもたらします。
1)う蝕予防のメカニズム
キシリトールは糖アルコールの仲間です。ショ糖と同じ甘さを持ちますが、う蝕原性細菌による糖代謝がおこなわれ難く酸の産生につながりにくいことや、ガムを噛むと唾液がたくさんでることから、結果として再石灰化促進作用が期待されています。
リカルデントは牛乳たんぱく質(カゼイン)と無機質(リン酸カルシウム)の複合体(CPP-ACP)です。ACPはエナメル質を修復する無機質成分(カルシウムやリン酸塩)であり、CPPは無機質成分を過飽和で高濃度に溶解して安定させるはたらきがあります。この複合体が歯表面を取り囲んでいると、歯垢中の乳酸発酵は中和され脱灰抑制になり、また初期脱灰のエナメル質部分に接していれば再石灰化促進作用が期待されます。
このようにキシリトールもリカルデントも再石灰化作用があるのですが、その結果生じた再石灰化物は特異的に強化されたものではありません。一方、フッ化物は再石灰化する際に微量のフッ化物が歯の結晶内に取り込まれ、歯の構成成分になるので、生来のエナメル質以上に耐酸性のエナメル質が得られるのです。
元来、生体での石灰化にはフッ化物の存在は不可欠であり、キシリトールもリカルデントも再石灰化作用を発揮するには口腔に常にある微量のフッ化物の助けを前提にしているのです。キシリトールを開発しているフィンランドではキシリトールの広告ではフッ化物の併用を薦めています。結局、キシリトールやリカルデントは環境対策、フッ化物は環境対策に加えて歯そのものに作用する宿主対策という違いがあるのです。
2)応用方法と費用
キシリトールもリカルデントも、主にガムに配合して利用されています。したがって効果をあげるためには日常的にガムを食べる習慣につながっていることが前提になります。今までの有効性が証明されたとする報告論文を元にすると、キシリトールの場合、1日5〜10gが必要です。これをガムで摂るとして、1日10〜22粒、年間の費用は9〜18万円になります。また、リカルデントガムの場合は1日4回、20分間噛むことを2週間継続する、となっています。これらを守ることはなかなか難しいことです。とくに甘い物を好む人や唾液分泌が異常に低下した人など、とくにう蝕リスクの高い場合に有効な対策になると考えられます。
フッ化物、キシリトール、リカルデント、これらにはそれぞれ異なったう蝕予防メカニズムがあり、併用した場合には相乗効果が得られると考えられますが、組み合わせ予防において、実際に有効性が得られる条件や応用方法の特性から考えると、まずフッ化物応用を公衆衛生的に地域社会全体で実施し、追加的にキシリトールやリカルデント含有ガムをとくにう蝕リスクの高い特定の個人やグループに応用する方法が良いと考えられます。
フッ化物応用はこの数十年にわたる世界中の地域社会単位での実施経験から、その有効性が確認されていますが、キシリトールは人を対象とした調査では、まだ限られた報告例に基づくものです。また、リカルデントについては、動物実験ではう蝕予防効果が確かめられていますが、人を対象とした報告ではう蝕予防効果が直接確認されたものはなく、口腔内実験による再石灰化現象が認められた段階です。
わが国では1997年にキシリトールが食品添加物として、2000年にリカルデント配合ガムが特定保健用食品として認可されています。
むし歯はそれほど重大な病気ではないのに、なぜフッ化物を使うのでしょうか?
むし歯は重大な病気です。すべての年齢層で最も多くの人がかかっている疾病であり、莫大な治療出費を余儀なくされているのがむし歯です。したがって、社会的に対処すべき疾患であり、その対策には社会的な対応が求められている疾患です。そして、フッ化物の公衆衛生的応用によって、むし歯の罹患率を確実に減少させることが立証されているのです。
むし歯そのものによって生命が脅かされることはほとんどありませんが、一度、むし歯に罹ると自然治癒はなく、二度と元の健康な歯には戻れず、その影響は一生涯続きます。とくに、豊かな食生活の確保や生活の質(Quality of Life;QOL)に大きな影響を与えます。歯の抜ける原因のほとんどがむし歯と歯周病ですから、むし歯を予防できれば、むし歯が原因で歯を失うことも予防できるのです。80歳になっても20本以上の歯を残そうという8020運動はご存知と思いますが、自分の歯が多数残っている人ほど活動的で自立度の高い老後を送ることができることもわかってきています。それに、むし歯が予防できれば、むし歯の痛みやむし歯による審美的・心理的苦痛からも解放されるのです。
このような観点から、むし歯は治療よりも予防が優先される病気といえます。むし歯の予防手段は多数ありますが、現在までの研究成果により、確実な予防効果が証明されたのはフッ化物応用とシーラント処置です。
日本では、以前から行われてきた歯磨きの励行と砂糖摂取のコントロールについてのキャンペーンが広くゆきわたり、世界でも誇れるほど優秀な国になりました。しかし残念ながら、日本のフッ化物応用の普及程度は、世界に大きく遅れをとっています。今わが国で優先すべきは、歯の対策としてのフッ化物応用です。
フッ化物という薬に頼るのではなく、歯磨きと甘味制限という絶対に安全で基本的な手段でむし歯予防をしたいのですがどうなのでしょうか?
むし歯予防の基本的手段は、フッ化物応用、甘味制限、歯磨きです。
歯磨きはむし歯の原因である歯垢を除去するために行い、甘味制限は、口腔細菌の食べ物である蔗糖を制限して、歯垢の形成や歯垢の中でつくられる酸の量を抑えるためのものですが、これらはいずれも歯の環境対策です。一方、フッ化物は歯質の強化により丈夫な歯をつくる宿主対策であり、疫学理論から見ても最も基本となる方法です。
また、科学の世界では絶対という言葉はありえませんし、フッ化物以外のこれらの基本手段も絶対安全とはいえません。そもそもフッ化物を使用しなければ多くのむし歯は予防できません。このできたむし歯を治療する際に使用する多くの機具、器械の使用や薬品はとても絶対安全とはいえないのです。また、直接的には歯ブラシの使用により長期的には歯が磨耗し、歯ぐきの退縮の原因になります。甘味制限にも栄養的、心理的にはマイナス面が指摘されています。しかし、このことによって歯ブラシの使用をためらったり、甘味制限は行わないほうが良いという人はいないはずです。フッ化物についても同じです。フッ化物利用は十分に研究され、実施に移されてから60年にもなろうとする歴史をもつ効果と安全性の確立された予防手段です。現在の保健医療は、効果や安全性に関して高い根拠の証明が要求されています。これをEBM(Evidence based medicine)といいますが、EBMの点で推奨されるむし歯予防手段は、フッ化物利用とシーラント処置なのです。
日本の場合のフッ化物濃度に関する水質基準0.8ppmの意味は、フッ化物の汚染度の上限をさすものなのでしょうか?
いいえ、汚染度の意味ではありません。適量のフッ化物は有益ですから、汚染度という表現は正しくありません。この上限値が決められた基準は歯のフッ素症の発生を予防するために決められたものです。
現在、わが国の水道法により定められているフッ化物の水質基準(0.8ppm)はフッ化物の長期摂取により発生する可能性のある歯のフッ素症防止の観点から決められたものです。したがって、単にその値以下であればよいとする基準であるため、フッ化物によるむし歯予防の利益が考慮されていないのです。米国・環境保護局(EPA)では飲料水中のフッ化物イオン濃度が4ppm以下であれば全身への悪影響(骨硬化症)の心配はないとしています。また、WHOをはじめとする医学専門学会の見解によれば、1ppm程度で生ずるのは軽度の歯のフッ素症のみで審美的にも問題なし、2ppm程度で中程度以上の歯のフッ素症が生ずるが審美的問題のみで全身問題はない、と記されています。なお、日本では沖縄から北海道まで幅広い緯度があり、この条件を考慮した適正濃度の設定が望まれます。因みに、米国における適正濃度は0.7ppm〜1.2ppmとなっています。
わが国での多くの研究からその至適濃度は地域によって異なり、九州、四国、南西諸島では0.6-0.8ppm、北海道では1.1-1.2ppm、その他本州では0.9-1.0ppmと推奨されています。
フッ化ナトリウムは劇物であるといわれていますが、何から作られているのでしょうか?
むし歯予防に調整されたフッ化物(フッ化ナトリウム配合)製剤は濃度によって扱いが異なります。歯磨剤は医薬部外品、歯面塗布法の溶液は普通薬です。洗口法の場合、水に溶かす前の顆粒状洗口剤は「劇薬」に指定されますが、小児が自己応用を行う際の溶かした洗口液は普通薬です。(薬事法第52条より)
なお、フッ化ナトリウムはフッ化物を含む鉱物から作られます。
普通薬であるか、劇薬として指定されるかは製剤の濃度によって決まります。
フッ化物イオン濃度が1%(10.000ppm)以下に調整されたものは普通薬に分類されます。歯面塗布溶液は0.9%F、洗口剤はその10分の1以下(週1回法;フッ化物イオン濃度900ppmF、毎日法;フッ化物イオン濃度200ppmF)の濃度です。よってこれらは普通薬です。しかし、水に溶かす前の顆粒状洗口剤はフッ化物が5%なので劇薬指定になります。用い方によってそれに適した濃度が決められていますが、いずれも口腔内に適用するものは普通薬です。
フッ化物はフッ化物を多く含む鉱物である蛍石(fluorite CaF2)や氷晶石(cryolite Na3AlF6)から工業的に製造します。また、リン酸肥料製造やアルミニウム精錬過程で副次的にも得られます。
フッ化物が海に流れ込むと、海のフッ化物濃度が高くなり、汚染されることはないのでしょうか?
水道水フッ化物濃度調整によって海水中のフッ化物イオン濃度が上昇することはありません。
海水のフッ化物イオン濃度は、およそ1.3ppmです。水道水フッ化物濃度調整が実施される場合、標準は1ppm 前後の濃度であり、海水よりも低いのです。しかも、水道水が直接海に流出することは稀であり、多くは下水を通じて河川に放流されますが、その量は河川の流量に比較してきわめて少なく、河川のフッ化物濃度に影響することはほとんどありません。海水中のフッ化物のほとんどは、河川から流入してくるものですが、河川のフッ化物イオン濃度はほとんど0.1ppm未満であり、海水に比べておよそ10分の1以下の低濃度です。
「河川から流入してくるフッ化物の影響で海のフッ化物イオン濃度が2倍に達するには、約100万年かかる」という試算もありますが、海水のフッ化物イオン濃度は6億年前から現在の濃度と同じであるとする証拠もあるのです。河川から流入してきても、実際には、海水中のフッ化物は、不溶性のフッ化物として沈殿したり、海中の生物の硬組織、貝殻や魚の骨などの構成物として取り込まれたり、また、漁業によってこれらの海産物は陸揚げされたり、一部は大気中に放出されたりするので海水のフッ化物濃度は平衡状態が保たれているのです。
また、水道水フッ化物濃度調整に使用されるフッ化物は、天然にあまねく存在する物質であり、「天然のフッ化物」と「人工のフッ化物」という区別はなく、水道水フッ化物濃度調整に用いられたフッ化物が海に流れても「汚染」という表現は当りません。
環境物質などとフッ化物が結合して有害になることはないのでしょうか?
水道水フッ化物濃度調整で使うフッ化物は1ppmレベルというきわめて低濃度であるため、水中ではその全部がフッ化物イオンとして存在しており、他の物質と化合物を形成することはありません。環境ホルモンなどの有害物質を作ることは考えられませんし、また確認されてもいません。
環境庁水質保全局水質管理課が平成11年に「水環境中の内分泌攪乱物質(いわゆる環境ホルモン)実態調査」結果1)を報告しています。この調査では環境ホルモンと疑われる物質22種類について全国405地点で水質調査を行っていますが、調査物質としてフッ化物が結合した物質は含まれていませんでした。
「WHO必須薬品モデルリスト第13版(2003.4.)」で、この品目の公衆衛生上の当面の問題との関連性、および有効性、安全性には疑問がある。として注記し、モデルリストから「フッ化ナトリウム」を削除する方向で検討しているとありますが、やはりフッ化物に問題があるからではないでしょうか
「WHO必須薬品モデルリスト第13版」において対象となっているものは、サプリメント(補充剤)のことであり、う蝕予防に用いるフッ化物の場合、フッ化物錠剤が対象となっています。水道水フッ化物濃度調整、歯磨剤、フッ化物洗口などはサプリメントには含まれていません。
実際、WHOは水道水フッ化物濃度調整やフッ化物配合歯磨剤の利用を推奨していますし、またフッ化物錠剤は日本では医薬品やサプリメントとしても承認されていません。
フッ化物錠剤は数あるフッ化物応用法のなかで国際的にみて唯一普及率が減少しているものです。それは、個人にまかせた錠剤の投与では、飲んだりのまなかったり、一度に沢山飲んだり、また、家庭にある錠剤を幼い子どもが多量に飲んで中毒をおこすことがあるなど、処方どおりの使用が困難だからです。
フッ化ナトリウムの製造には産業廃棄物を使用するということを聞きましたが、これにはフッ化物以外に有毒な物質が多種多様に含まれているのではないのでしょうか?
フッ化ナトリウムの製造に産業廃棄物を使用することはありません。
フッ化物は天然に多い元素の一つであり地殻中にも多く含まれ、とくに、カルシウムやリンの多い岩石や石灰化物に多く含まれています。水道水フッ化物濃度調整に用いられる主なフッ化物は、①フッ化ナトリウムNaF、②珪フッ化ナトリウムNa2SiF6、および③珪フッ化水素酸H2SiF6ですが、他にも珪フッ化アンモニウム、珪フッ化マグネシウム、フッ化水素酸ならびにフッ化カルシウムなどが使用されてきました。現在、これらのフッ化物の大部分は、リン酸工業(肥料工業)の二次的な生成物として得られています。リン酸工業ではリン鉱石を硫酸で処理してリン酸を得ていますが、この際、フッ化物は主に珪フッ化ナトリウムあるいはフッ化ナトリウムの形で生産されます。したがって、フッ化ナトリウムの製造に産業廃棄物を使用しているわけではありません。
急性中毒事例を検討した科学的な研究論文からすると、フッ化物の最小急性中毒量は、0.1〜0.5または0.8㎎/㎏ではないでしょうか?
一般に、中毒とは毒物を摂取して何らかの生体機能に障害をうけ、悪影響がみられるものをいい、悪影響がみられない場合(ホメオスターシス保持)は単なる負荷と呼ばれます。上記の0.1〜0.5または0.8㎎/㎏という数字は中毒とはいえない症状を基にしたものと思われます。
食べ過ぎやお酒の飲みすぎ、あるいは嫌いなものを口にした際の一過性の不快症状などは中毒とはいわないのです。
フッ化物の急性毒性に関して、医療機関への紹介が必要なレベルとして国際的にPTD(見込み中毒量)5㎎F/㎏体重が使用され、CDC(アメリカ国立疾病管理予防センター)もこの基準を採用しています。
ちなみに わが国の情報として、(財)日本中毒情報センターによるフッ化物経口投与中毒量は次のようにまとめられている。
中毒量:約5〜10㎎/㎏、消化器症状は約3〜5㎎/㎏で生じる。
フッ化物の濃度を示すppmや%の意味を教えて下さい
%(パーセントpercent)は日常よく耳にする言葉です。パーセントとは百分率のことで、全体を100とした場合の割合を示します。たとえば、食塩が1%の濃度の食塩水といえば、食塩水100g中に食塩が1g入っている濃度になります。
一方、ppm(ピーピーエム)という言葉は%と同様に割合の単位ですが、正式にはperts per million(パーツ・パー・ミリオン)あるいは百万分率と呼ばれています。文字通り全体を100万とした場合の割合のことであり、%よりも微小な割合の場合に使用します。食塩が1ppmの濃度の食塩水といえば、食塩水1㎏(=1,000g)中に食塩1㎎(=1,000分の1g) が溶けている濃度です。したがって、%とppmの関係は1%=10,000ppmであり、ppmという単位は非常に微小な割合を表すことがわかります。
フッ化物にはむし歯予防以外に有益な作用があるのでしょうか?
栄養的にみればフッ化物はミネラル(無機質)の1つです。フッ化物は、カルシウムと同じようにヒトの歯と骨の構成成分(構成素)であり、歯や骨の石灰化度を調節する働きがあります。したがって、むし歯予防以外に、骨に対して有益な作用があり、至適量のフッ化物摂取により骨折や骨粗鬆症が予防できます。また、大動脈の石灰化を予防する作用もあり、結果的に冠動脈疾患(心臓疾患)による死亡率が低下するという報告があります。
適正フッ化物濃度飲料水を使用している人に骨折が少ないということが最近の疫学研究で分かりました。最近、2001年に発表された整形外科領域の論文で、常用飲料水のフッ化物濃度と高齢者の骨折に関する研究から、フッ化物濃度の低すぎる飲料水や反対に高すぎる飲料水の常用で骨折頻度が高く、骨折頻度の最も低いフッ化物濃度がむし歯予防で最も効果的な濃度とされてきた1.0ppm前後であったことから最近とくに注目されています。
むし歯予防へのフッ化物利用に対する専門機関の意見はどうなのでしょうか?
世界保健機関(WHO)が1969年に水道水フッ化物濃度調整およびその代替法の推進決議を行ないましたが、その後、WHOは1975年および1978年と合計3回のわたり水道水フッ化物濃度調整およびその他のフッ化物の利用を推奨しています。現在、世界では合計150もの各種の専門機関がフッ化物の適正利用を推奨しています。以下に、主な専門機関の意見をまとめましたが、フッ化物の適正利用に否定的な見解をもつ機関は1つもありません。
世界
1964年(昭39年):国際歯科連盟(FDI)第52回総会で推進決議
1969年(昭44年):世界保健機関(WHO)第22回総会で実施勧告
1970年(昭45年):ヨーロッパう蝕研究学会(ORCA)フッ化物利用推進表明
1974年(昭49年):世界保健機関(WHO)と食糧農業機関(FAO)フッ化物が必須栄養であることを確認
1975年(昭50年):世界保健機関(WHO)第28回総会で実施勧告
1976年(昭51年):英国王立医学協会が「フッ化物と歯と健康」にてフッ化物応用推奨
1978年(昭53年):世界保健機関(WHO)第31回総会で実施勧告決議
日本
1949年(昭24年):厚生省・文部省「弗化ソーダ局所塗布実施要領」を公表
1966年(昭41年):厚生省「弗化物歯面局所塗布実施要領」を公表
1968年(昭43年):厚生省「弗化物溶液の洗口法によるむし歯予防」を公表
1971年(昭46年):日本歯科医師会「フッ化物に対する基本的見解」を公表
1972年(昭47年):日本口腔衛生学会が日本歯科医師会の基本的見解に全面的支持を表明
1974年(昭49年):歯科保健問題懇談会(厚生大臣私的諮問機関)がフッ化物応用推進表明
1977年(昭52年):日本歯科医師会「年少者のう蝕抑制のためのフッ化物応用についての考え方」を公表
1977年(昭52年):日本学校歯科医会「児童う蝕抑制対策推進要綱」を公表
1982年(昭57年):日本口腔衛生学会「う蝕予防プログラムのためのフッ化物応用に対する見解」を公表
1990年(平2年):厚生省「幼児期における歯科保健指導の手引き」を公表
1999年(平11年):日本歯科医学会「口腔保健とフッ化物応用」を答申
2000年(平12年):厚労省「健康日本21」を公表
2003年(平15年):厚労省「フッ化物洗口の集団適応に対する意見書」を答申
水道水フッ化物濃度調整に対して誰が反対してきたのでしょうか?
一部の人達が色々な理由で反対しています。
アンケートで質問された時、今のところ反対ですという人を「反対者」として分類することは問題があるもしれませんが、その場合は、水道水フッ化物濃度調整をまだ体験したことがないこと自体が反対の理由とも言えます。実際に一般の方からよく耳にする心配事が事実と異なっている例をあげてみましょう。
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水道水フッ化物濃度調整がおこなわれた水道水は、特別な味や匂いがするのでは?
事実:味や匂いは普通の水道水と変わりません。 -
水道水フッ化物濃度調整は毒物であるフッ化物を水道に混入することでは?
事実:実際におこなわれることは、水道水中に天然に含まれるフッ化物イオンの濃度を適正なレベルに調整することです。用いられるフッ化物はフッ化ナトリウム(NaF)、珪フッ化ナトリウム(Na2SiF6)、珪フッ化水素酸(H2SiF6)などですが、ごく薄い濃度(約1ppm)で調整されたフッ化物は天然のフッ化物と同じイオンであり、人体に対してまったく同じ作用を持ちます。 -
水道水フッ化物濃度調整が実施された水道水を飲みたくないという個人の選択が保障できないではないか?
事実:水道水フッ化物濃度調整を実施する場合もしない場合も、公衆衛生施策ではすべての人々に個人選択を保障することはできません。しかし、水道水フッ化物濃度調整は個人の基本的人権を侵害するものではありません。
また、水道水フッ化物濃度調整には絶対反対を叫ぶ次のような人々もいます。別な目的、例えば自然食運動や原発反対、環境保護を訴えている人達の中で、水道水フッ化物濃度調整が彼らの運動理念と異なっていると勘違いしている場合があります。水道水フッ化物濃度調整は自然現象の模倣であり(米国歯科医師会)、自然の環境を汚染するものではありません(英国王立医学協会)。
また日本教職員組合は学校におけるフッ化物洗口法に反対していますが、その反対理由は明らかではありません。フッ化物洗口法は個人の選択の自由が保障されている方法です。生涯で最もう蝕に罹患しやすい学齢期における永久歯のう蝕予防対策として、フッ化物洗口法は、国際的にもSchool-basedの保健対策として認められ、広く普及している方法です。
水道水フッ化物濃度調整を実施している国はありますか。またその費用はどれ位になるのでしょうか?
むし歯予防意識の高い国では、何らかのフッ化物応用が行われており、その結果むし歯が少なくなっています。
そのなかでも特に公衆衛生特性の高い水道水フッ化物濃度調整を導入している国は36カ国であり、天然の至適フッ化物濃度水道水の利用を含めれば56カ国に及びます。その費用は1人当たり年間約10円から60 円と安く、生涯の総費用でさえも1本のむし歯の治療費にしか相当しません。
水道水フッ化物濃度調整の価値は国際的に認められており、全世界では実施国数は60カ国に達しています。広範に水道水フッ化物濃度調整をしている国々は、カナダ、香港、マレーシア、イギリス、シンガポール、チリ、米国、ニュージーランド、コロンビア、コスタリカ、アイルランドなどで、ごく最近では、南アフリカと中国で水道水フッ化物濃度調整を導入することが決定しました。 米国では1945年に開始され、2000年には1億2067万人余りに普及し、現在も増加の一途を辿っています。また近年、韓国では水道水フッ化物濃度調整が進み、国民の30%の普及率を目標にしています。韓国では1990年代後半以降、急激に普及し始め、現在、2004年7月では321万人余りに水道水フッ化物濃度調整が実施されています。また、2000年に制定された「口腔保健法」には、水道水フッ化物調整の実施に関して明記されています。
日本国内でも米軍基地内では水道水にフッ化物が添加されていると聞いたことがありますが、本当なのでしょうか ?
東京都下の横田基地(福生市を中心に5市1町にまたがる7.13平方キロメートル)では、水源を12の井戸から確保して5か所の浄水場で水道水フッ化物濃度調整を実施しています。
他の米軍基地(三沢、横須賀、厚木など)でも同様に、口腔保健保持増進のために1956年からフッ化物を水道水に添加しています。水道水のフッ化物濃度は横田基地では0.9ppm、横須賀基地では約0.8ppmに調整されています。いずれの基地においても、今までに副作用の報告はなく、米軍基地内で働く多くの日本人に関しても問題は生じていません(水道水フッ化物濃度調整が日本人だけに特別に有害であるという報告は1例もありません)。
ちなみに、米軍管理下にあった当時の沖縄本島においても水道水フッ化物濃度調整が行われていました。この時の水道水フッ化物濃度調整の供給人口のピークは、19市町村で約50万人であったことも付け加えます。勿論、何ら沖縄島民に悪影響は認められませんでしたが、日本への移管とともに基地以外の地域での水道水フッ化物濃度調整は中止されています。
水道水フッ化物濃度調整によってフッ化物の過剰摂取になる事はないのでしょうか?
そもそも水道水フッ化物濃度調整というのは、丁度良いフッ化物濃度の飲料水を見つけて、これを模倣したものであり、過少摂取にも過剰摂取にもならないように調整をすることです。
丁度良いフッ化物濃度の飲料水というのは、う蝕が少なく歯のフッ素症もほとんどない状態であり、もちろん、骨格系の疾患やほかの全身疾患も増加しないという飲料水を意味します。ちなみに、むし歯予防効果を発揮するフッ化物の適正摂取量は1日に体重1㎏当たり0.05㎎です。日本人成人のフッ化物摂取量は1日およそ0.48〜2.64㎎(飯塚、1975)と報告されており、適正摂取量に達していません。なお、全身の組織の中でフッ化物に最も敏感な組織が歯のエナメル質であることは分かっており、至適フッ化物濃度の指標として歯のフッ素症が用いられる由縁です。
水道水フッ化物濃度調整で生じるフッ素症歯(斑状歯)は折れやすくなるのでしょうか?
フッ素症歯で歯が折れやすくなる事はありません。
歯のフッ素症は歯の形成期(永久歯の前歯は生後〜3歳、その他永久歯は8歳以前)に高濃度フッ化物の飲料水の影響を受けた石灰化障害であると考えられています。
水道水フッ化物濃度調整で生ずることのある軽度のフッ素症歯が折れやすいと報告した医学論文は見られません。水道水フッ化物濃度調整地域で一部の人に軽度のフッ素症歯がみられることがありますが、このような軽度のフッ素症歯はむし歯になりにくいことが特徴で、生涯にわたる歯の健康度からみても、丈夫な歯質になっています。また歯表面の一部がぼんやりと白くなっているだけで、審美的にも、機能的な不便さはまったくありません。
問題となるフッ素症歯は、適正フッ化物濃度の2倍以上の地区でみられる、中程度以上のフッ素症歯で、その構造的な障害は症例により程度の差がありますが、重症な場合には象牙質にも及び歯質の実質欠損を伴うことがあります。そのような例では歯表面全体が白濁し、2次的に着色したり、重症になると歯質の一部が欠損したりすることもあります。そのような重症のフッ素症歯の見た目の感じから、硬くて折れやすいと心配されたものと思われますが、実際には重症のフッ素症歯であっても、変化はほとんどエナメル質に限局されており、歯の破折とは関係しないのです。
問題となるフッ素症歯は、水質管理が不十分な自然の高濃度天然フッ化物地区で生ずるものであり、むしろ、水道水フッ化物濃度調整を行なわなかったことによって起こったことです。水道水フッ化物濃度調整によって生ずることのある軽度フッ素症歯では、エナメル質表面下の薄い一層に限られ、審美的にも問題はなく、機能的にも外からの圧力に弱いことも決してありません。
水道水フッ化物濃度調整で使用するフッ化物の量はどれ位でしょうか?また中毒との関係はどうなのでしょうか?
一般的に水道水フッ化物濃度調整のフッ化物は1ppm前後の濃度になるように設定されています。
至適フッ化物濃度はその地域の気温によって異なります。このフッ化物濃度1ppm前後の飲料水を1リットル飲用すると、1㎎のフッ化物が摂取されます。
また水道水から摂取されるフッ化物量と中毒との関係については、飲料水に含まれるフッ化物量が少ないことと、飲料水として継続して使用するということから、歯のフッ素症について考慮する必要があります。しかしながら、米国の医学研究所食品栄養局(Food and Nutrition Board of the Institute of Medicine)が示す「健康に悪影響を及ぼさない最大のフッ化物摂取レベル(許容上限摂取レベル)」によれば、たとえば4〜8歳児は一日あたりフッ化物2.2㎎です。しかしこの年齢における一日の飲水量は平均で1リットル程度ですから、飲料水から摂取するフッ化物量は1㎎です。
水道水フッ化物濃度調整は成人にも有効なのでしょうか?
水道水フッ化物濃度調整は生涯を通じてむし歯予防に有効であり、子どもにとっては勿論のことですが、大人にも恩恵を与え続けます。水道水フッ化物濃度調整による全身的な作用は、歯がつくられている子どもにとって有効なものですが、同時に局所的作用がありますので大人にも生涯にわたり役立ちます。
水道水に含まれる微量のフッ化物が頻回に歯に触れることで、むし歯の前駆症状である歯の脱灰部分に作用して、その再石灰化に関与して歯を修復します。さらに、唾液中に存在する微量のフッ化物は、歯の表面にとりこまれるフッ化物イオンの供給源となります。
成人に対するもう一つの利益は、根面むし歯に対するものです。歯肉が退縮して歯根が露出するとむし歯発生のリスクが高まります。ところが、微量のフッ化物が歯根面の歯質にとりこまれて、むし歯を予防することを示す調査研究があります。
カナダのオンタリオ州の天然フッ化物地域(1.6ppm)である、ストラトフォードに居住し続けている人々は、非フッ化物地域であるウッドストックの人々に比べて確実に根面むし歯が少ないことが証明されています。
人間がより長生きになると自分の歯も長く残り、根面むし歯発生の危険が増加します。1988〜1991年の米国国民医療・栄養調査資料によると、成人の22.5%が根面う蝕を経験していましたが、この数値は下記のように年齢とともに驚くほど増加しました。
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18〜24歳ではわずか6.9%
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35〜44歳では20.8%
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55〜64歳では38.2%
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75才歳以上では約56%
高齢者は、歯肉退縮に加えて薬物治療や病気などにより、唾液流量が減少したり、唾液腺障害をおこしやすい傾向にあります。このような高齢者は、脱灰した歯の修復に必要なフッ化物などの成分を含んでいる唾液流量が減少し、むし歯の危険性が高まります。しかも、根面う蝕は普通の歯冠部のう蝕と違って非常に治療が困難であり、抜歯される率が高いのです。したがって、生後から老年まで継続して水道水フッ化物濃度調整された飲料水を飲むことが有用なのです。
京都の山科で実施されていた水道水フッ化物濃度調整はどうして中止されたのでしょうか?
その理由の一つは、期限付きで実施された研究であったことによるのです。決して副作用が生じたとか予防効果がなかったという理由ではありません。
京都大学医学部の美濃口玄教授らの指導によって1952年から、わが国初の水道水フッ化物濃度調整が京都山科地区において実施されました。フッ化物濃度は0.6ppmに調節されました。フッ化物調整開始12年後の調査報告では、7〜12歳児の平均の永久歯むし歯数(DMFT指数)は40〜50%減少しました。このように、歯科保健にとって肯定的な結果が得られたのですが、水道水フッ化物濃度調整は13年後に中断されました。その主な理由は、この事業が10〜15年という期限付きの厚生省の委託研究でであったこと、また、当該地区は京都の郊外住宅地(団地、分譲地など)として急激に発展したため、従来の小規模な浄水場では水道水の需要増に応じきれなくなったことでした。
宝塚や西宮ではどうして歯のフッ素症問題が起きたのでしょうか?
これは両地域の飲料水中に天然に高濃度のフッ化物が含まれており、それを長期間使用していたためであり、決して水道水フッ化物濃度調整の結果によるものではありません。むしろ、当該地域に対する水道水フッ化物濃度調整が行なわれていたらフッ素症歯問題は起こらなかったのです。
宝塚市の歯のフッ素症問題は、昭和46年5月に、同市内の小学校の歯科検診で、学童の歯に多数、歯のフッ素症の症状が見られるという朝日放送の報道により始まりました。同月内に市は「宝塚市フッ化物問題研究協議会」を発足させ、事態の究明を図りましたが、昭和56年2月には被害者32名を原告とする「斑状歯による損害賠償請求事件」として、大阪地方裁判所へ提訴されました。また、同様の民事訴訟は昭和53年に西宮市でも起こりましたが、平成5年12月、最高裁において、宝塚・西宮両市の「損害賠償請求事件」は「水道の設置・管理の瑕疵及び水道事業を経営する市の担当職員の過失が否定」されて結審となりました。
この宝塚市の事件は、夏場の渇水期に、通常は用いていなかった第4水源の水を従来の貯水池に引水したことから発生しました。それは宝塚温泉地帯特有の高濃度のフッ化物を含んだ水でした。水源を変えたことでその後には歯のフッ素症の発生はありません。また、市では昭和57年に「宝塚市斑状歯の認定及び治療の給付に関する条例」を設け、1,300名余りの認定患者の治療補償を実施してきました。
わが国でも水道水フッ化物濃度調整は必要なのでしょうか?
我が国でも水道水フッ化物濃度調整は必要と考えられます。
現在、わが国で水道水フッ化物濃度調整は実施されていませんが、すでに小児う蝕は減少しつつあると言えます。12歳児における平均永久歯う蝕経験歯数(DMFT指数)は、4.6(学校歯科保健統計、1985年)から2.09 (同、2003年)に減少しています。しかし、この間にう蝕の検出基準が変わって探針を使用しなくなり、それだけで見かけ上約40%のう蝕の減少があるとする研究があるのです。そうすると2003年の2.09は1985年の基準から見れば3.48となり、それほど減少しているわけではないのです。仮にこの2003年の2.09をそのまま認めるとしても、水道水フッ化物濃度調整が実施されている国々に比べると、まだ2〜3倍のう蝕歯数です。
これら先進国に比べると、わが国では歯磨き習慣がより徹底しており、またショ糖消費量が低いにもかかわらず、先進諸国よりも高いう蝕歯数であることを考えると、残された対策である水道水フッ化物濃度調整の有効性が高く見込まれることになります。
また、水道水フッ化物濃度調整は、高齢者や要介護者で多発する歯根面う蝕の予防効果が大きいことも特徴です。さらに、健康に関係する生活習慣は極端な個人差があります。また、家庭環境や身体的・精神的に障害がある場合なども大いに考慮されなければなりません。
水道水フッ化物濃度調整はこのような個人的な不公平な条件を超えて、小児から高齢者、障害者にいたるまで地域に住むすべての住民に生涯を通した効果が得られることから、本方法の実施は21世紀のわが国における歯科保健の基盤的対策となるべきものです。21世紀の国民的健康政策づくりの中で、水道水フッ化物濃度調整は国民全体の歯科保健を最大限に向上させることができる、地域単位で取り組む公衆衛生的う蝕予防として最良の方策です。なお、わが国で水道水フッ化物濃度調整の普及を目指すうえで、水道普及率(96%)が世界のトップレベルにあることはたいへん良い条件と言えるでしょう。
水道水フッ化物濃度調整がヒトの健康に悪い影響を与える事はあるのでしょうか?
水道水フッ化物濃度調整によって、ヒトの健康に悪い影響が及ぼされたという科学的な証拠は見つかっていません。
水道水フッ化物濃度調整地域に生活している人々や天然に飲料水中にフッ化物を多く含む地域に生活している人々に対して、長年にわたり、歯学的、医学的ならびに公衆衛生学的な見地から、膨大な調査が綿密に行われてきました。それらの結果は、世界的規模の機関や国際的な保健機関から幾度となく再評価されていますが、水道水フッ化物濃度調整によって、ヒトの健康に悪い影響が及ぼされたという科学的な証拠は見つかっていません。わが国においても水道水フッ化物濃度調整の経験がありますが、その時の報告でも健康への悪影響は認められていません。しかしながら、今後とも社会の変化にあわせて、いろいろな角度からフッ化物応用の人への影響に関する調査と監視が続けられ、人々の健康を確保していくことが必要です。
水道水フッ化物濃度調整された水道水を多量に飲んだ場合、急性中毒の危険はないのでしょうか?
水道水フッ化物濃度調整による急性中毒の心配はありません。
水道水フッ化物濃度調整のフッ化物濃度(至適濃度)はその地域の気温によって異なりますが、一般的には、フッ化物濃度1ppm前後に設定されています。その飲料水を1リットル飲用すると、1㎎のフッ化物が生体に摂取されます。フッ化物による急性中毒の最小発現量は体重1㎏当たりフッ化物を5㎎とされていますから、体重22㎏の6歳児の場合は、110㎎のフッ化物を一度に摂取した時に急逝中毒の症状が発現します。これを飲料水の量で置き換えると、6歳児であれば、急性中毒発現のために110リットルの飲料水を一度に飲用しなければなりません。現実にはこのようなことは不可能であり、起こりえないことは明らかです。
水道水フッ化物濃度調整により、水道管、工業用水、農作物、家畜、魚、ペット(熱帯魚、小型の鳥など)に悪影響が出る事はないのでしょうか?
水道水フッ化物濃度調整によって、給水システムや水道管に腐食が起こると主張する人がいますが、心配はありません。
水道水による腐食の原因は、水に溶解している酸素濃度、pH、水温、硬度、塩素濃度、硫化水素物質の有無、ある種のバクテリアの存在などです。仮に、ある水質条件下で既に腐食している水道管が存在していると、その腐食性は、ミョウバン、塩素、フッ化珪素酸、珪フッ化ナトリウムによって増加する可能性がありますが、その場合にはpHを上昇させるという処理方法が決められています。このような処理は、上水道処理場での日常的な操作過程の1つです。
わが国において、京都の山科で行われた水道水フッ化物濃度調整では、京都市水道局が末端水道水や水道管の腐食、給水システム、配水池壁面のコンクリートなどについて詳細に調査しました。その結果、13年間にわたり一定のフッ化物濃度(0.6ppm)の水がほとんど誤差もなく供給され、配水管や末端の水道管、給水システム、壁面コンクリートなどに何ら影響はなかったと報告しています。また工業用水に関しては、山科地区での醤油製造、製氷、清涼飲料水、染色、レンズ研磨などに用いられましたが全く影響がなかったと報告されています。
一方、動植物や水中生物に及ぼす影響については、水道水フッ化物濃度調整した水で採れる農作物、その水道水で育った家畜や淡水魚、またはペット(熱帯魚、その他)に至るまで何らの被害も報告されていません。反対に、ほとんどフッ化物を含まない餌と蒸留水でラットやマウスなどを飼育した研究では、子どもを生まなくなったり、行動の調節が難しくなったりなどのストレスによると考えられる異常が報告されています。さらには、水道水フッ化物濃度調整によりフッ化物が海に流出し、海水魚や海産物に影響を与えると危惧する人がいますが、本来フッ化物は天然にあまねく存在する物質であり、とくに海水には水道水フッ化物濃度調整より高いフッ化物濃度のおよそ1.3ppmのフッ化物が自然に含まれていることから、海水に与える影響は考える必要はないのです。
道水フッ化物濃度調整がエイズの原因になる事があるのでしょうか?
水道水フッ化物濃度調整とエイズ(後天性免疫不全症候群)は全く関係がありません。
エイズは、ヒト免疫不全ウィルス(HIV)として知られているレトロウィルスによって引き起こされるものです。HIVの感染経路は、無防備な性交渉や血液感染、あるいはその汚染された血液製剤との接触、また感染した女性の妊娠による胎児へのウィルスの移行、あるいは出産時における新生児への感染などが挙げられます。従って水道水フッ化物濃度調整とHIVあるいはエイズとは全く無関係です。
そもそも、水道水フッ化物濃度調整とエイズが関係付けられて話されたのは、サンフランシスコにエイズ患者が多く発生し、一方、サンフランシスコが水道水フッ化物濃度調整を行なっていたという単純な理由からといわれています。
水道水フッ化物濃度調整がアルツハイマー病の原因になる事はないのでしょうか?
水道水フッ化物濃度調整された飲料水の摂取がアルツハイマー病の危険因子であるという科学的な証拠は存在しません。
アルツハイマー病の原因はまだ正確には解明されていませんが、現在のところ年齢と家族歴に関連があり、また他の原因によって脳に深刻な損傷を受けたり低レベルの知的障害が原因となるものと考えられています。
一方、アルツハイマー病患者の脳組織中にアルミニウムが発見されたため、お湯を沸かすときに使用するフッ化物濃度調整された水道水が調理器具のアルミニウムを溶出させ、それによってフッ化物がアルツハイマー病を促進する補助要因になるという主張がありました。
そこで、アルミニウムの調理器具を用いて、使用する水のフッ化物濃度調整の有無によるアルミニウムの溶出実験が試みられました。ところが、強酸性もしくはアルカリ性であっても、調理器具からアルミニウムは検出されませんでした。他方、アルミニウムとフッ化物が体内に拮抗的に吸収されることは明らかであることから、むしろフッ化物を摂取することがアルツハイマー病の予防に繋がるかもしれないとも考えられます。事実、水道水中のフッ化物濃度が高い地域では、アルツハイマー病の有病率が有意に低かったという報告もあるのです。
また、これらに関連して、フッ化物濃度調整された飲料水を飲むと、神経組織を損傷する神経毒になり、また知能低下を起こすという主張がありました。
そこで、水道水フッ化物濃度調整地域に生まれてから6 歳まで生活している子どもの健康や行動を、フッ化物濃度調整をしていない地域の同年齢の子どもと比較するという疫学調査が行なわれました。研究の全期間にわたって医学的調査が毎年記録され、6歳と7歳の時点で子どもの行動を母親と教師の双方が評価しました。その結果、フッ化物濃度調整された飲料水が、子どもたちの健康や行動に悪影響を示す証拠は何も得られなかったのです。
水道水フッ化物濃度調整を実施している地域では、歯並びや咬み合わせがよくなると聞きましたが本当でしょうか?
水道水フッ化物濃度調整によって歯並びや咬み合わせが良くなるというデータがあります。
水道水フッ化物濃度調整によってむし歯が予防されるのは、主にフッ化物が歯の質を改善して、むし歯に対する抵抗力を高めるからです。歯並びが悪くなる原因の一つにむし歯とそれによる歯の喪失があります。歯並びや咬み合わせは歯の質の改善によって影響を受けるものではありませんが、水道水フッ化物濃度調整によって乳歯とくに第一大臼歯のむし歯が予防され、これらの歯をうしなわないことによって歯並びの不良が予防されるのです。
水道水フッ化物濃度調整を実施したNewburghと実施しなかったKingstonという米国New York州の2つの町での調査から、重症である歯並び不良な中学生の割合が、水道水フッ化物濃度調整を実施したNewburghでは9.4%であったのに対して実施しなかったKingstonでは22.5%と2倍半も多かったという有名なデータがあります。
水道水フッ化物濃度調整によって母乳から過剰のフッ化物が乳児に移行される危険はないのでしょうか?
水道水フッ化物濃度調整で、母乳から乳児に過剰のフッ化物が移行されるということはありません。
フッ化物は生命と健康の維持に不可欠な“生体微量元素”の一つですし、水道水フッ化物濃度調整地域で生活していない人の母乳中にもフッ化物が含まれています。その濃度は、0.05ppm以下ときわめて低く、水道水フッ化物濃度調整と同程度の飲料水やさらに高いフッ化物濃度の飲料水を飲んでも、母乳中のフッ化物濃度はほとんど変化しないことが報告されています。
母乳中のフッ化物の由来はもちろん母親の血中のフッ化物であり、母乳中のフッ化物濃度がほとんど変化しないのは、母親の血中フッ化物濃度の変化が極めて小さいことで理解できるのです。
水道水フッ化物濃度調整によって妊娠中の女性に悪い影響が出る事はないのでしょうか?
妊婦にも胎児にも全身的な影響はありません。ただし良い影響として妊婦自身と胎児の歯はより強い歯になることが期待できます。
胎児は母体の子宮の中で羊膜の袋の中で羊水に浮かんで育ちますが、その羊水の元素分布が海水ときわめて良く似ていることは興味があります。全くの自然の状態で、生理的な状態でフッ化物も含まれていることは申すまでもありません。
ここにおいても水道水フッ化物濃度調整が、自然の適正なフッ化物濃度の飲料水を使用してきた妊婦や病人、その他、あらゆる状態の普通に生活している人々について、良好な保健状態であったとする確認を根拠にして始められたという事実は、これらの問題を考えるうえで有用な情報なのです。
水道水フッ化物濃度調整はヨーロッパで禁止されているのでしょうか?
水道水フッ化物濃度調整が禁止されているという国は一つもありません。
水道水フッ化物濃度調整は、ヨーロッパでは禁止だとの主張をよくききます。ヨーロッパの国々は、1980年に開催されたヨーロッパ水質指導委員会で水質条例を作成していますが、その中で、フッ化物を含めて、多くの物質の最大許容濃度を規定していますが、当然のことですが、フッ化物濃度が許容量を超えないように求めただけです。指導委員会は水道水フッ化物濃度調整を要求も禁止もしていません。
水道水フッ化物濃度調整を行うことで個人の権利を侵害することにならないのでしょうか?
憲法で規定されている基本的人権には、「健康で文化的な最低限度の文化生活」とあります。また児童憲章には、「すべての児童は、心身ともに、健やかに生まれ、育てられ、その生活を保証される」とあります。水道水フッ化物濃度調整にはう蝕予防効果があり、ひいては生活の質の向上に実質的な寄与をすることが、たくさんの調査から確認されてきています。水道水フッ化物濃度調整はこれらの基本的人権を擁護する効果につながっているのです。
それでも「いやなことはいやだ」という個人の選択の自由を主張する人もあるでしょう。しかし、地域の公共物である水道を、どのような条件で給水するかを決めるのは地域住民による多数決がその時点における集団の意志決定とみなすべきであると考えられています。集団の意志決定に関する人々の権利とは、議員を選ぶ権利、または例外的に直接の意志表示として住民投票に1票を投ずることであり、その上で決められた事項に従うことは人間の平等や個人の権利を侵害することにはなりません。
多数決で決めた水道水フッ化物濃度調整を実施するとします。その結果う蝕が減り、歯科治療の苦痛が軽くなり、学校や職場を休むことが少なくなって自分の歯で人生をより豊かなものにすることが出来る事等が今までの水道水フッ化物濃度調整の実績から知られていることです。
一方、水道水フッ化物濃度調整に「反対」である人達について考えられることは、個人的選択の自由が議員の選択や投票以外では思うようにいかなかったとしても、それによって有害なこと、不利益なことは全くありません。しかもその不自由さは基本的人権に触れるものではなく、むしろ地域住民の全体の健康に寄与して生活を豊かにする方が地域住民全体の基本的人権を守る事になるのです。これらに関する、米国における判例をみると、個人の自由とは責任を伴うものであり、公共の福祉に反する自由は認められていない、というものです 。
水道水フッ化物濃度調整によって免疫機能やアレルギー反応に影響が出る事があるのでしょうか?
WHOは水道水フッ化物濃度調整によって免疫反応やアレルギー反応が引き起こされる事は全くないと結論づけています。
水道水フッ化物濃度調整によって、免疫反応への影響やアレルギー反応が引き起こされたという報告はありません。ヒトならびに動物実験において、フッ化物に対するアレルギーや皮膚反応テストで陽性になったという報告もありません。
米国アレルギー学会では、フッ化物に対するアレルギー反応についての臨床報告として、「水道水フッ化物濃度調整に用いられるフッ化物に対するアレルギーや過敏反応を起こす証拠はない」と結論づけています。また、米国国立科学アカデミー(NAS)の委員会では、至適濃度よりもかなり高い濃度のフッ化物を含む天然水を飲んでいる多くの人々において、免疫反応やアレルギー反応に影響を及ぼすという報告がないことから、アレルギー反応があるという主張を認めることはできないと述べています。
水道水フッ化物濃度調整によってダウン症の子どもの出生率が増加するという事はないのでしょうか?
ダウン症候群とフッ化物濃度調整された飲料水の摂取とに関連性がある事を示す科学的な証拠はありません。
ある調査において、水道水フッ化物濃度とダウン症児の発生頻度とが関連のあるとする主張がなされたことがありましたが、調査対象の選出や調査方法に初歩的で重大なミスがあることがわかり、その仮説は否定されました。
具体的には、ダウン症児を出生した母親の妊娠前から妊娠中を通じて生活をしていた場所での飲水歴を考慮せずに、子どもの出生証明書に記載された出生地(母親は里帰りしただけ)で検討したことや、ダウン症児の疫学調査ではとくに重要な母親の年齢特異性が考慮されていなかったことなど、疫学調査として決定的な誤りがあることが判明したのです。さらには、その調査と同一の対象者を再分析したところ、水道水フッ化物濃度とダウン症児の発生頻度とに関連が認められないことから、その仮説は否定されたのです。
その後、イギリスや米国において多くの疫学調査が実施されていますが、水道水フッ化物濃度調整とダウン症児およびその他の先天異常(心臓・循環器系の異常、尿道下裂、水頭症、わん曲足など)の発生率との関係は証明されていません。
また、遺伝毒性に関して、マウスを用いた多くの研究では、水道水フッ化物濃度調整の100倍のフッ化物濃度であっても、骨髄や精子においてフッ化物が染色体に損傷を与えることは実証されませんでした。ハムスターの骨髄細胞や培養卵巣細胞を用いてフッ化物の遺伝毒性が研究されていますが、ここでもフッ化物は染色体に損傷を与えず、フッ化物に遺伝的な危険性はないとされています。さらに広範囲のフッ化物レベルにわたって、最も広く応用されている染色体変異誘発試験(Ames test)を行った結果においても、フッ化物による変異原性はないことが認められました。
これら多くの調査や研究の結果を踏まえて、米国国立科学アカデミー(NAS)の米国科学学会(NRC)は、至適フッ化物濃度の水道水を飲むことによる遺伝的な危険性はないと公表しています。1991年に米国公衆衛生局(PHS)は「フッ化物の利益とリスクに関する再評価」を刊行し、水道水フッ化物濃度調整は先天異常やダウン症に問題がないと公表しました。
水道水フッ化物濃度調整は重要な公衆衛生施策と言えるのでしょうか?
水道水フッ化物濃度調整は重要な公衆衛生施策です。
水道水フッ化物濃度調整は、それほどお金や労力を必要とせずに、水道の水を利用するだけで知らぬ間にう蝕を予防できる方法です。誰に対しても公平な公衆衛生施策であり、他の予防手段に比べて効果と安全性が高いという公衆衛生特性のきわめて高い優れた方法です。
水道水はほぼ毎日使用されており、安定した供給が得られ、経済的負担も少ないので公衆衛生的な施策として利用するにはとても有用です。米国では20世紀に最も大きな利益を提供した10の公衆衛生施策の1つとして水道水フッ化物濃度調整が挙げられています。
水道水フッ化物濃度調整は全ての地域住民に対して、生涯を通じてう蝕予防による利益を提供することが出来る、安全でありかつ費用・効果率の高い公衆衛生施策なのです。
水道水フッ化物濃度調整が実施されれば、飲みたくなくても飲むことを強制されます。これは、国民の選択の自由を奪う全体主義的な発想ではないのでしょうか?
民主主義に根付いた選択の自由、多数決での決定、平等の精神が存在する米国では、社会の健康権(公共の福祉)の下では個人の選択権は制限されるというのが基本的な考えです。
特に個人の選択の自由を奪う、人権を無視するという意見に対して米国では以下の概念を持っています。
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地域の選択に際しては、権力を持った人が一方的に決定するよりも、「50%+1人」の決定を優先することが民主的である。
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選挙権を持たない子どもの権利を守ることは社会の責任であり、専門学会の推奨や法的な判断の下で力を行使することがある。とくに子どもに対する健康の保障は重要である。
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どうしてもフッ化物添加された水道水を飲用したくない場合には、ボトル入り飲料水を用いるか、家庭の水道の蛇口にフッ化物除去フィルターを取り付ける。
水道水フッ化物濃度調整についての個人の権利は、選挙権を持たない子どもに対する健康の保障を考慮して、多数決での決定や、法的判断を行う必要があります。しかし、個人の選択、自己決定、地域住民の選択・合意・決定のためには、確かな情報と正しい知識のもとで議論する場が必要となります。
過去に沖縄本島で実施された水道水フッ化物濃度調整が子宮がん死亡率を増加させたとする新聞記事は本当なのでしょうか?
水道水フッ化物濃度調整は子宮がん死亡率を増加させることはありません。
WHOをはじめ米国国立がん研究所、英国王立医学協会など多くの医学専門機関は、多くの調査研究データを解析吟味し、水道水フッ化物濃度調整はいかなる臓器の癌についても、そのり患率や死亡率を高めている証拠はないとの結論を出しています。
一部に、沖縄県で以前実施された水道水フッ化物濃度調整が子宮がん死亡率と有意な関連性があるとの議論が展開されたことがありますが、その根拠となった調査データには誤った情報が少なくなく、またその集計にも不備があることが指摘されたのです。当然ながら、そこから導き出された結論も誤りを含んでいることになります。
問題の論文のなかで、例えば、金武町(当時の金武村)が水道水フッ化物濃度調整地区と分類されていますが、実際は実施されていませんでした。逆に、東風平町が水道水フッ化物濃度調整未実施地区に分類されていますが、ここは水道水フッ化物濃度調整が行われていたことがわかっています。そのほか、水道水フッ化物濃度調整実施地区として分類されているなかにも、昭和46年当時の上水道普及率が30%に満たない地域が含まれており、これらの町の住民全員をフッ化物イオン濃度が調整された水道水の飲用者として分類して子宮がん死亡率を計算してしまうことには大きな問題があります。さらに、当時医療状況が大きく異なっていた離島と本島の子宮がん死亡率を、単純に水道水フッ化物濃度調整していたか否かによって分けて比較検討してしまうことも、科学的な配慮の足りない誤った集計と言わざるを得ません。
このように、分析のための前提となるデータに事実誤認があり、集計分類にも不備がある場合、当然その結果も誤っていることになります。水道水フッ化物濃度調整の安全性に関する情報には常に関心をもたなければなりませんが、誤った情報に基づいて判断することは避けなければなりません。
フッ化物は自然環境中に存在しており、人間はこうした環境のなかで暮らしてきたというが、フッ化物に対するなんらかの「適応力」によって体ががまんしてきた結果であり、ようやく現在のレベルのフッ化物の量になじんでバランスをとることができるようになったのに、水道水フッ化物濃度調整によってバランスがくずれることはないのでしょうか?
バランスがくずれるようなことはありません。
これまで、低いフッ化物イオン濃度の水を飲んでいた住民が、水道水フッ化物濃度調整による水を飲むようになっても、特別の疾患や死亡率が増えたという例がありませんので、バランスが負の方向へくずれるということを考える必要はありません。むしろ、歯や骨の健康増進という正の方向へバランスが移っていくことが分かっています。
この質問には大変興味深い内容を含んでいます。フッ化物は生物の発生以来、太古の昔から自然界(地中や海水)に存在してきたことから、生物も自然も、結果としてそれに充分対応できる能力を持って進化してきたといえるのです。海水のフッ化物濃度が6億年も前の先カンブリア紀から1.3ppmであったこと、全ての生物がその海の中で進化してきたことを考え合わせれば、水道水フッ化物濃度調整の1ppm付近のフッ化物濃度で生態環境を左右する可能性はきわめて考え難いとするのが常識的であり、妥当な考え方であろうと思われます。
外国で水道水フッ化物濃度調整が中止された事はあるのでしょうか?
政治、経済、技術的理由により水道水フッ化物濃度調整が中止された事例は少なからずあります。ただし、医学的な理由で中止された例は一例もありません。
外国で水道水フッ化物濃度調整が中止された事例は少なからずありますが、世界全体を見渡しますと、水道水フッ化物濃度調整の普及は進んでいます。
FDI(世界歯科医師連盟)が行った調査によれば、1984年では全世界の2億4600万人が水道水フッ化物濃度調整による水を使用しているとされています。1998年に英国水道水フッ化物濃度調整協会(British Fluoridation Association)がFDIなどの世界の各データをまとめた情報では、61か国、3億6千万の人々が水道水フッ化物濃度調整による水を飲用していることが示されています。従って世界全体では水道水フッ化物濃度調整ははっきりと増加していることが分かります。
水道水フッ化物濃度調整が中止に至った事例として、旧ソ連崩壊後における東欧・中欧諸国の例や北欧(スウェーデン、フィンランド)などの例が知られています。東欧・中欧諸国では設備が時代遅れで水道水フッ化物濃度調整の利益について関係者の知識が不足していたためとされています。また北欧のスウェーデン、フィンランドで中止に至ったのは政治的な理由とされています。
水道水フッ化物濃度調整は少なくとも民主主義の国では各地域の議会あるいは住民による多数決で決められます。一度、水道水フッ化物濃度調整が始まっても、多数決で否決されれば中止するのです。したがって、水道水フッ化物濃度調整が中止された事例が決して珍しくないのは当然であります。
フッ化物洗口液が変質することはあるのでしょうか?
一般的に、作製した洗口液は数週間は変質しませんが、決められたとおりに使用することが必要です。
集団で実施する場合は、調整した洗口液はその都度担当者が処分しますので問題ありません。しかし個人応用の場合は、調整した洗口液を容器に入れて1カ月程度個人で管理することになります。その場合には、容器を直射日光の当たらない涼しい所に保存して変質を防ぎます。冷蔵庫などに保管する場合は飲料品と区別して誤飲のないように注意します。
安心して使用するには、洗口剤を作製した製薬会社や歯科医師などの指示を守ることが必要です。(フッ化物洗口液に用いられるフッ化物には有効期限があるものもあります。)
フッ化物洗口とフッ化物歯面塗布を併用しても良いのでしょうか?
単独のフッ化物応用でもむし歯予防効果は発揮されますが、ほかのフッ化物応用法を併用することにより、さらに効果を増加させることができます。
事実、米国などではフッ化物濃度調整された飲料水を摂取し、学校でフッ化物洗口を行い、家庭ではフッ化物配合歯磨剤を用いて大きなむし歯予防効果をあげています。ただし、井戸水など自然の飲料水を使用している場合には、飲料水に含まれるフッ化物濃度を勘案しながら多重応用する必要がありますので、くわしくは専門家に相談して下さい。
飲料水のフッ化物濃度が0.3ppm未満の地域(日本ではほとんどがこれに相当する)では、フッ化物歯面塗布とフッ化物洗口、そしてフッ化物配合歯磨剤の使用を併用しても、フッ化物摂取が過剰になるという心配はありません。米国やカナダをはじめ、ヨーロッパ各国では、この0.3ppm未満の地域に住む6カ月〜3歳児には0.25㎎、3〜6歳児には0.50㎎、6〜16歳児には1.0㎎のフッ化物を毎日、錠剤(または液剤)のような形で摂取する方法が推奨され、実際にも行われています。
お茶にはたくさんフッ化物が含まれているそうですが、お茶で洗口してもむし歯予防に有効でしょうか?
日本茶に含まれるフッ化物濃度はフッ化物洗口液に比べて低い為、むし歯予防の効果はほとんど期待できません。
他の食品に比べて、お茶にはフッ化物が多く含まれています。そのため、お茶を飲んだり洗口すればむし歯予防に効果があると考えられるかもしれませんが、実際にはむし歯予防効果はほとんど期待できません。なぜなら、フッ化物洗口は歯の表面にフッ化物を含む液を直接作用させる方法であり、一定濃度(およそ100ppmF)以上の洗口液を用いないと、歯の表面と反応しなかったり、また洗口後に有効な濃度以上のフッ化物が口の中(歯垢中に)に残らないからです。洗口液のフッ化物濃度は225ppm(毎日法)と900ppm(週1回法)ですが通常飲まれているお茶のフッ化物濃度は0.5〜1.0ppmです。お茶のフッ化物濃度は低すぎるのです。それに子供がお茶を飲む習慣がないことも考慮しなければならないかもしれません。
しかし、お茶を飲用することにより、全身的なフッ化物の効果は期待できますし、他にタンニン(カテキン)という成分が含まれており、これには殺菌作用と抗酸化作用があり、むし歯予防にも役立つことがわかってきました。したがって、これがフッ化物と協力して、ある程度むし歯予防に働くかもしれません。
フッ化物洗口によるむし歯予防効果はどれくらいでしょうか?また、フッ化物洗口にもいろいろな方法がありますが、どのような基準で選択したら良いのでしょうか?
乳歯から永久歯(おとなの歯)に生えかわる時期である小学校の6年間継続して洗口した場合の永久歯のむし歯予防効果はおよそ50%程度です。
より効果を増大させるには、永久歯が生える前の4〜5 歳頃から洗口を開始して、長期間継続することです。
フッ化物洗口には、毎日1回ずつ1分間の洗口を行う方法(毎日法、保育園や幼稚園、学校の場合は月曜から金曜日までの週5回法)と、1週間に1回1分間の洗口を行う方法(週1回法)があります。できれば毎日法が望ましく、家庭で行う場合はこれを採用します。ところが、集団で行う場合は毎日実施することが困難な場合があります。その場合の選択基準の目安は次のようになります。保育園や幼稚園など就学前の子どものように年齢が低い場合は、習慣化の面から考えても毎日法が望ましく、小中学校では週1回法が適しているといえるでしょう。
小学校でフッ化物洗口を実施してむし歯が予防できても、中学校に入ってから止めてしまうと、その効果がなくなってしまうのでしょうか?
小学校の低学年頃に生えてきた永久歯は、洗口液中のフッ化物が長期間作用して歯の質が強化され、洗口を中止してからもむし歯に対する高い抵抗性を維持していることが証明されています。
一方、小学校の高学年になって生えてきた永久歯は、フッ化物の作用期間が短く、また、萌出してからの年数がすくないため、その効果は中学生になるとうすれてくる可能性があります。また、中学生になってから生えてくる永久歯である第二大臼歯に対しては、フッ化物洗口による効果はなく、洗口しなかった子どもの永久歯と同じようにむし歯ができてしまうでしょう。このような点を考えると、智歯を除く永久歯が生えそろう中学校卒業時点までフッ化物洗口を継続することが望ましいといえます。しかし、小学校4年生頃までにはかなりの永久歯が生えてくること、また、とくに就学以前から実施することで一番むし歯になりやすく、また、一番大切な第一大臼歯のむし歯予防に役立つことから、小学校の6年間の洗口実施には十分な効用が期待できるのです。
フッ化物洗口剤を取り扱う上での注意点を教えて下さい。
水に溶かす前のフッ化物洗口剤(粉末)は劇薬に相当しますから、鍵の掛かる子どもの手の届かない場所に厳重に保管して下さい。
指示どおりフッ化物洗口剤を水にとかして作ったフッ化物洗口液は、濃度の高いものでも0.09%ですから、普通薬(フッ化物として1%以下のものは普通薬)に該当します。そのため、とくに保管上の問題はありませんが、飲み物と区別して下さい。なお、洗口液の調整は洗口の当日あるいは前日に行い、冷暗所に保管するなどして水が変質しないよう注意が必要です。
フッ化物洗口法の実施手順を教えて下さい。
まず、フッ化物洗口を小学校や幼稚園などで集団応用する一般的な方法について説明します。なお、この方法は絶対的なものではなく、各施設の状況に応じて修正することができますので、専門家に相談して下さい。
- 【準備するもの】
- フッ化ナトリウム粉末(または製剤)、ポリタンク、各クラスの分注ボトル、洗口用コップ、砂時計(1分計)又は1分計測用音楽CD、フッ化ナトリウム保管用の広口ビン、など
- 【手順】
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あらかじめ歯科医師または薬剤師が1回に必要なフッ化ナトリウムを計量し、それを小さめの容器(広口ビン)に入れる。
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洗口液の作製:洗口前日または当日に、広口ビンに入った1回分の粉末をポリタンクに入れ、必要量の水道水を加えて撹拌し洗口液をつくります。一般的には保健室で行います。
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各クラス分の準備と運搬:ポリタンクから各クラスの分注ボトルへ必要な量の洗口液を移し、各クラスの代表者がクラスへ運びます。
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洗口用コップへの分配:各クラスで、分注ビンから各人のコップに洗口液を分配します。
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洗口開始:担任の先生の合図で、一斉に洗口液を口に含み、前を向いて全部の歯に行きわるように、約1分間ブクブクうがいを行います。
-
洗口終了と片づけ:1分間経過したら、担任の先生の合図で洗口液をコップへ吐きだします。クラスの代表者がコップを回収します。
-
洗口実施後30分間は飲食を避けるように注意します。
次に、フッ化物洗口を家庭で毎日実施する場合の一般的な方法について説明します。
- 【準備するもの】
- フッ化ナトリウム粉末(または市販されている製品)、専用容器、洗口用コップ、時計
- 【手順】
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洗口を行う前に、歯を磨くか水で口をすすぐ(必ずしも必要ではない)
-
あらかじめ作っておいた洗口液を洗口コップに取る
フッ化物洗口剤としての製品は歯科医院や薬局で購入できますが、事前に指導を受けることが必要となりますので、歯科医院に相談して下さい。製品にはミラノールとオラブリスという商品名のものがあります。
ミラノールにはフッ化物濃度250ppm用(黄色の袋入り)と450ppm用(ピンク色の袋入り)の2種類があり、それぞれ1包中に1g(フッ化物として50㎎)と1.8g(フッ化物として90㎎)のピンク色の顆粒が入っています。この顆粒1包を200mlの専用容器に入れて、水道水を加えて軽く振り混ぜて溶かせば、フッ化物洗口液ができあがります。
一方、オラブリスは1包中に1.5g(水色の袋入り)のピンク色の顆粒が入っている1種類(フッ化物として75㎎)だけです。この顆粒1包を専用容器に入れ、167ml(450ppm用)または300ml(250ppm用)の線まで水を入れて軽く振り混ぜるとフッ化物洗口液ができあがります。
1回の洗口に用いる液量は、ブクブクうがいのしやすい量で決めます。おおよその目安は、4歳で5ml、5〜6歳で7ml、小学生以上で10mlです。専用容器のふたが洗口コップになっていて、ミラノールの場合は1mlづつの目盛りがついているので、ふたに注いで計量します。また、オラブリスの場合は、容器本体を押しながら計量部に洗口液を計り取り、洗口コップに液を移して洗口を行います。
なお、洗口液は子どもの手の届かない清潔な冷暗所に、薬として厳重に保管します。冷蔵庫に保管する場合は、子どもが誤って飲んだりしないように、ビニール袋に入れたりシールをして、明らかに区別できるように注意してください。1ヶ月程度は保存できますが、途中で雑菌が混入してカビが生えたりしたら、新しい洗口液を作ります。
- 30秒間洗口する
- 洗口液を口に含み、洗口液が全部の歯に行きわたるようにブクブクうがいをします。前方かやや下方を向いて行いますが、のどのガラガラうがいではないことに注意します。また、1回に口に含む洗口液量を2回に分けて口に入れないようにしましょう(1回分の液量を取り出して、口に含んだ後の残った液は捨てます)。
- 洗口液を流しに吐き出す
- 洗口液は十分に吐き出します。その後水で口をすすぐことは避けて下さい。
- 実施後30分間は、うがいや飲食を避ける
- 飲食を避けるために、できれば就寝前の歯磨き後に洗口を実施すると良いでしょう。各家庭の都合によっては、夕食後の歯磨き後でも良いでしょう。
なお、子どもの洗口は保護者の監督下で行って下さい。4、5歳児の洗口に際しては、飲み込まずに洗口して吐き出せるようになるまで、水で練習をしましょう。
フッ化物洗口は教育的な面ではどうなのでしょうか?
フッ化物洗口は自分自身で洗口して吐き出す方法であることから、自律的応用法ともいわれています。この方法は、自分の歯は自分で予防しているという意識が高まり、教育的な面でも良好です。
実際にフッ化物洗口を実施している学校からは、教育的な意味でも好ましい効果があると報告されています。フッ化物洗口によってむし歯が減ったという直接的な効果もさることながら、とかく無関心で軽視されがちな歯科保健全般に対する理解が深まり、歯科保健行動を良好な方向へ促す上で、大きな影響を及ぼします。具体的には、歯に関心を持つようになったり、むし歯予防に取り組む意識が高まって、歯みがきもよく行うようになったりするというものです。
このような特徴を生かして、学校では、保健活動や児童会の委員会活動などを通じて、自主的、積極的にフッ化物洗口を実施すれば、学校保健活動に対する父母の理解も深まり、より協力的かつ円滑に実施されることが期待できます。
ブクブクうがいによるフッ化物洗口ができない低年齢児に実施できるフッ化物応用法にはどんなものがあるのでしょうか?
自分でブクブクうがいのできない低年齢児に適したフッ化物応用には基本的に2つ、すなわち医療機関で行う方法および家庭で行う方法です。
歯科医院あるいは保健所などの医療施設で行う方法は、フッ化物歯面塗布法です。これは高濃度のフッ化物を用いるため、歯科医院あるいは歯科衛生士等の専門職のいる施設で行われます。
家庭で行うフッ化物応用は3つの方法があります。
1つは「フッ化物液みがき」です。歯科医院などで調整したフッ化物溶液やフッ化物洗口液で歯磨きをします。
2つめはフッ化物配合歯磨剤やフッ化物配合スプレーを用いた「ダブルブラッシング法」です。この方法は、1回目の歯磨きのときは、歯ブラシだけで歯についている汚れを落とすように子どもの歯を磨き、2回目に泡状あるいは液状のフッ化物配合歯磨剤を、適量歯ブラシにのせて歯にのばすように使います。フッ化物配合スプレーをスプレーします。
この医療機関と家庭における方法を併用すると良いでしょう。
フッ化物洗口液中にはどれくらいのフッ化物が入っていますか。また、洗口後に口の中に残ったフッ化物洗口液が害を及ぼす事はないでしょうか?
毎日法として使用されるフッ化物洗口液(フッ化物濃度225ppm)には、1ml当たり0.2㎎のフッ化物が含まれています。また、週1回法の場合(フッ化物濃度900ppm)は、1ml 当たり0.9㎎のフッ化物が含まれています。
たとえば、幼稚園や保育園でフッ化物洗口を実施する場合を詳しく説明します。フッ化物濃度が225ppmの洗口液7ml(1人分)には1.6㎎のフッ化物が含まれており、洗口して吐き出した後にその10〜15%(0.16〜0.24㎎)が口の中に残ります。これは、お茶1杯に含まれる程度のフッ化物量であり、体重20㎏の園児が急性中毒症状の発現フッ化物量(100㎎)の150〜250分の1にすぎません。
またフッ化物洗口は実施者の年齢や実状に合わせて実施されますので、いくつか例を紹介します。
フッ化物洗口液を全部飲み込んでも安全でしょうか?
フッ化物洗口液はたとえ誤って、1回分の全量を飲み込んでも心配がないように調整されたものを使用しています。
フッ化物洗口法はフッ化物溶液を一定時間歯に接触させるものですから、実施に当たっては、とくに低年齢児の場合には飲み込まずにうがいができるように水で練習してから開始します。
フッ化物の急性中毒は、体重1㎏当たり5㎎のフッ化物を摂取した場合に発現しますので、体重20㎏の園児であれば100㎎のフッ化物摂取に相当します。この園児が0.05%NaF(フッ化物として225ppm)の洗口剤7mlで洗口するのであれば、洗口液中には1.6㎎のフッ化物が含まれていますので、100㎎/1.6㎎=62.5となり、急性中毒の発現量の1/62です。したがって、7ml洗口の場合には誤って62人分以上の洗口液すべてを同時に飲み込んだ場合には急性症状が発現しますが、現実には明らかに起こりえません。
フッ化物洗口によって歯のフッ素症は発現するのでしょうか?
洗口を始める時期や洗口液のフッ化物濃度からみて歯のフッ素症は発現しません。
歯のフッ素症とは、歯のエナメル質表面に白斑や縞状の白濁部が散在するような状態をいいます。これは、顎骨の中で歯がつくられている時期に、高濃度のフッ化物を長期間摂取することで現れます。したがって、永久歯の前歯に歯のフッ素症が出現するのは、出生から4歳頃までの間に、継続的に一定以上のフッ化物を摂取した場合です。しかし、わが国の場合、洗口は5歳頃から開始していることと洗口液のフッ化物量を低く抑えていますので、フッ化物洗口によって歯のフッ素症は発現しません。また、国の内外を問わず、実際の調査でもフッ化物洗口で歯のフッ素症が発現したとする報告はありません。
フッ化物洗口を行ってはいけない病気があるのでしょうか?
フッ化物洗口は、飲み込まずに指定の時間洗口して吐き出す能力が備わった人であれば、どのような方に実施しても問題ありません。
フッ化物は自然界に広く存在する物質であり、私たちは日常生活の中で飲食物とともに摂取し続けています。大人で1日約1〜3㎎のフッ化物を飲食物より摂取しますが、フッ化物洗口によって摂取されるフッ化物は0.2㎎程度とごくわずかです。ですから、フッ化物洗口は、飲み込まずに指定の時間洗口して吐き出す能力が備わった人であれば、実施して問題ありません。また、身体の弱い子どもや身障者がフッ化物の悪い影響を受けやすいということもありません。
集団でフッ化物洗口し、流しに吐きだしたり捨てたりした排水液の為、付近に悪影響を及ぼすことはないのでしょうか?また、フッ化物洗口による事故が起こったことはないのでしょうか?
フッ化物洗口後の排液は学校で使用される大量の水で希釈されるため、低濃度になって排水され影響はありません。
ある物質が環境汚染物質として問題にされるのは、それが放出されたために自然界に含まれていた量が大きく変化する場合や、今まで自然界に存在しなかったものを人工的に放出したために、生態系に何らかの影響を与えた場合です。フッ化物洗口後の排液は学校で使用される他の大量の水で希釈され、低濃度になって排水されます。また、フッ化物は有史以前から自然界のすべてのものに存在していますので、新しく合成された化学物質とは違うのです。
ちなみに、児童数1,000人の小学校で、フッ化物洗口を実施した場合を想定してみましょう。フッ化ナトリウムとして0.09%のフッ化物洗口液1,000人分のフッ化物量は9,000㎎(9g)ですから、最大で9gのフッ化物が流しに吐き出されます。それに対して、比較的フッ化物濃度の低い(約0.1ppm)信濃川は自然の状態で1日に約6トンのフッ化物を日本海へ流し出していますが、海水のフッ化物濃度が変化することはありません。
また、実際の例として学校で一斉にフッ化物洗口法をおこなっても、その日の下水中フッ化物濃度は0.2ppm程度でした。これは洗口後の排液が学校で使用された大量の水で希釈されるためです。ちなみに水質汚濁防止法により下水中フッ化物濃度が規定されていますが、一般の排水では15ppm以下とされていますから0.2ppmは問題外の低濃度です。
また日本で本格的にフッ化物洗口が実施されてから30年以上が経ちますが、事故が起きたという報告はありません。これは、誤って洗口液をすべて飲み込んだとしても安全な量に調整されているからです。
フッ化物洗口に対する日本政府の見解はどのようなものなのでしょうか?
厚生省(当時)医務局歯科衛生課は昭和43年10月に、「弗化物溶液の洗口法によるむし歯予防」を発行し、むし歯予防のためにフッ化物洗口法を用いることを推奨しています。
その中では、学校給食をしている児童は学校給食をしていない児童に比べ、むし歯にかかる割合が高いという結果から、給食の際に行う適当なむし歯予防方法について、安全性、有効性、簡易性、学校の場であるという点から検討しています。その結果、「わが国で広く行っている学校給食の際、食後直ちに、0.1%のフッ化ナトリウム溶液5〜10mlをもって洗口することは、給食によって発生するむし歯を予防ないし抑制するいちじるしい効果ある方法である」という結論が得られました。
また、昭和59年12月21日付で当時の国会議員から提出された「フッ化物の安全性に関する質問主意書」(フッ化物洗口に関する質問に対して、当時の中曽根康弘内閣総理大臣より答弁書が出されました。)その内容の概略は次の通りです。
「むし歯予防のためのフッ化物応用については、WHO の勧告もあり世界各国で広く活用されており、我が国においても、日本歯科医師会及び日本口腔衛生学会の専門団体は安全でかつ有効であるとの見解を示しており、その安全性については問題がないと考えている。」
「フッ化物水溶液の洗口は、学校における保健管理の一環として実施されているものである。」
「フッ化物水溶液による洗口は任意に行われるもので、“フッ化物のうがい”を行わない児童生徒がいても問題はないと考える。」
「フッ化物水溶液による洗口の実施に当たっては、事前に保護者に対してその趣旨の説明を行い、その理解と協力を求めてこれを実施することが望ましいとものと考える。」
さらに文部省(当時)は、「小学校歯の保健指導の手引き(平成4年2月改訂版)」の第2章「歯の健康つくりの理論と実際」第2節「むし歯の原因とその予防」(3「むし歯の予防」の饌「公衆衛生的な方法によるむし歯の予防」)において、集団的にフッ化物などによるうがいを行うことが公衆衛生学的方法であると述べています。
学校においてフッ化物洗口を実施できる法的根拠は何でしょうか?
校保健は、文部省設置法第5条により、学校における「保健教育(保健学習と保健指導に大別)」と「保健管理(専門的知識・技術を駆使して現在の健康の確保をはかるものであり、対人管理と対物管理に大別)」であると定められています。
前者は「学校教育法」、後者は「学校保健法」に規定されています。その学校保健法第6条により毎学年実施される学校歯科健康診断が実施されています。その結果は、学校病の1つである「むし歯」がいまだに最も被患率の高い病気という状況です。そして学校保健法第7条では、「学校においては、前条の健康診断の結果に基づき、疾病の予防処置を行い、又は治療を指示し、並びに運動及び作業を軽減する等適切な措置をとらなければならない。」とあります。そこで、学校で実施されているフッ化物洗口はこの法律に基づいているといえます。
また、これと同じ質問が、昭和59年12月21日付で当時の国会議員から提出された「フッ化物の安全性に関する質問主意書」の中にあり、これに対して昭和60年3月1日付で、当時の内閣総理大臣中曽根首相より
「学校におけるフッ化物水溶液における洗口は、学校保健法第二条に規定する学校保健安全計画に位置づけられ、学校における保健管理の一環として実施されているものである。」という答弁書が提出され、フッ化物洗口の法的根拠を位置づけました。
最近では、2003年1月に厚生労働省から「フッ化物洗口ガイドライン」がだされ、同省の医政局長・健康局長名で都道府県知事宛てに通知されました。そこでは、学校等の集団で実施することができることが大きな特徴であるとフッ化物洗口法を位置付けました。
学校でフッ化物洗口を行う場合、保護者に説明しなくても良いのでしょうか?また、洗口を希望しない家庭にはどうしたら良いでしょうか?
学校歯科医は、これらに関係する市町村行政や学校などの施設関係者と保護者だけではなく、学校医、学校薬剤師などにも事前に十分説明し、理解を得た上で協力体制を確立して進める必要があります。
具体的には、専門家の指導と助言のもとに、教職員およびPTA代表などで話し合い、洗口方法や保護者負担額などを決定しておきます。
その後、保護者を対象に説明会を開いて理解と協力を求めます。説明会に出席できなかった保護者には説明用のパンフレットを配布します。その後、保護者にフッ化物洗口実施の承諾をとります。学校でフッ化物洗口を実施する場合は、教育的な面や公衆衛生的な面から考えて、できるだけ全員で実施することが望ましいのですが、どうしても希望しないという場合は、水で洗口するなどの配慮をした方がよいと思います。また、翌年からの新入生に対しても同じように対処します。
学校で養護教諭がフッ化物洗口液を調整することは違法でしょうか?
学校で養護教諭がフッ化物洗口液を調整することは、違法ではありません。
これと同じ質問が、昭和59年12月21日付けで当時の国会議員から国会に提出された「フッ化物の安全性に関する質問主意書」の中にあります。これに対する回答が当時の中曽根康弘内閣総理大臣の答弁書に記載されています。
それには、「養護教諭がフッ化ナトリウムを含有する医薬品をその使用方法に従い、溶解・希釈する行為は、薬事法及び薬剤師法に抵触するものではありません。」とあり、学校で養護教諭がフッ化物洗口液を調整することは、違法でないことがわかります。なお、家庭でフッ化物洗口をする際には、素人の両親が洗口液を調整するのです。
集団のフッ化物洗口によって中毒が起こった場合、誰が責任をとるのでしょうか?
フッ化物洗口の安全性は十分に確立されており、仮に1人1回分の洗口液を全部飲み込んでも中毒などがないように処方されています。
実施にあたっては、定められた手順、器材、管理方法、その他の注意事項を守ってフッ化物洗口事業が行われていますので心配ありません。フッ化物洗口の場合、これまで中毒が起こった例はありませんし、起こる理由もないのです。他の一般的な公衆衛生事業の場合には、行政などの実施主体ならびに医学的見地からの指導・助言を行った専門職の代表など、それぞれの立場に応じて責任が生じてくることは当然です。
学校でのフッ化物洗口を実施する際に保護者から同意書をとるのは何故でしょうか?
フッ化物洗口は個人の選択が可能な方法であるからです。
学校でフッ化物洗口を行う場合、同意書(承諾書もしくは申込書ともいいます)をとらないとフッ化物洗口を行うことができないというわけではありませんが、実際にはフッ化物洗口を実施している学校・園では、同意書をとっているところが多いようです。同意書をとるかどうかは校長の判断によります。
同意書をとる理由は単一ではありませんが、いわゆる「インフォームド・コンセント」もしくは「インフォームド・チョイス」の一環として、小児の保護者に対して選択の自由を保障するという側面が強いと考えられます。
近年、子供のむし歯は減少しており、フッ化物洗口の必要性はそもそも低いのではないでしょうか?
子供のむし歯は減少傾向にあるものの、さらに改善を図っていくべきであり、フッ化物洗口の必要性は高いと思います。
むし歯は健康障害の一つであり、もっとも有病率の高い小児疾患の一つです。
また、むし歯は蓄積性の疾患で、修復処置を行ったとしても、予防処置を行わなければ、その後もう蝕に罹患するリスクは高いまま推移します。そのため、小児期にう蝕に罹患することは、将来的に歯を失うリスクが高くなることを意味し、学齢期に好発するう蝕を予防することは、歯の一生を考えた上で最優先されるべき歯科保健対策といえます。
たしかに近年は、子供のう蝕は減少傾向にあり、平成15年度の12歳児のDMFT指数(一人平均う歯数)は、2.09と報告されています。
しかし、この値は、「健康日本21」の「歯の健康」における学齢期の目標値(12歳児DMFTを1以下にする)に比べると2倍以上であり、一生涯のQOLの向上という点からも、さらに改善を図っていく必要性は高いと思います。
WHOは「6歳以下の子どもへのフッ化物洗口は禁忌」としているのに、日本で推奨するのはなぜでしょう?
日本では4、5歳児においてもフッ化物洗口が安全に行われていることが確認されているからです。
WHOによる上記見解の根拠になった論文(Weiら、1983)は、水道水フッ化物濃度調整が実施されている地域において未就学の幼児がフッ化物洗口溶液を飲み込んだ量を測定した調査であり、フッ化物洗口溶液の全量を飲み込み続けた場合に、歯のフッ素症の発生が誘発される可能性があるとされたのです。
しかし、日本ではフッ化物洗口溶液の全量を飲み込み続けるという状況は考えられないし、また、水道水フッ化物濃度調整又は錠剤などの全身応用が実施されていないため、フッ化物洗口を実施してもフッ化物摂取が過量になることはないのです。したがって、歯のフッ素症を発生させるリスクは極めて低く、他の水道水フッ化物濃度調整を実施している国とはフッ化物応用の土台が大きく異なっている点に注意する必要があります。水道水フッ化物濃度調整とは丁度良いフッ化物量が摂取できるようにすることですから、こうした地域ではフッ化物洗口溶液の全量を飲み込み続ければ過剰になるのは当然のことです。ただし、こうした水道水フッ化物濃度調整を実施している国でも、現在まで未就学の幼児によるフッ化物洗口で歯のフッ素症がみられたとする疫学的証拠はありません。
わが国の場合、就学前の施設においてはフッ化物洗口を実施する際、実施に先立ち真水による練習が行われ、洗口できることを確認した後でフッ化物溶液による洗口を始めています。実際に保育園児(6歳未満児)に対して口腔内に残留するフッ化物の量を調べた調査では、安全性の面で問題がないことが示されています。
以上のことから、わが国の専門団体である日本口腔衛生学会フッ化物応用研究委員会は、6歳未満児のフッ化物洗口について「問題なし」との見解を出しています。
6歳未満の幼稚園・保育園児のフッ化物洗口法は、最も重要な歯であり、また、最もむし歯になりやすい第一大臼歯のむし歯の予防に大きな効果があることから、とくに水道水フッ化物調整の行なわれていないわが国では重要な施策とされています。
フッ化物配合歯磨剤のフッ化物含有量は、どのくらいありますか?また使用後の口腔内残留量に問題はないのでしょうか?
日本薬事法によりフッ化物配合歯磨剤のフッ化物含有量の上限値は1,000ppm(歯磨剤1gあたりフッ化物が1㎎含まれる濃度)です。
子供用も大人用も950ppmに調整されている製品がほとんどです。普通大人は、0.8㎎くらいのフッ化物配合歯磨剤を使用しますので0.8㎎以下のフッ化物の使用となるわけです。うがいをしてフッ化物が0.1㎎口腔内に残留し少量ずつ飲み込まれてゆき、1日3回使用したとして0.3㎎のフッ化物量(日本茶300ml〜600mlに含まれるフッ化物量に相当)となり安全性に問題はない量です。子供の歯磨きでの1日摂取量も同様で日本茶130ml〜260mlにしか相当せず安全です。
フッ化物配合歯磨剤は、どのくらい効果がありますか?
フッ化物配合歯磨剤の効果ですが、単独応用で臨床研試験を行った場合むし歯予防率は、約20〜30%です。
しかし、各試験の研究機関、対象年齢、研磨剤の種類、歯を磨くとき監督下で歯を磨くかどうかなどの諸条件により、むし歯の予防効果に差が見られます。一般に、臨床試験では好成績がみられますが、普通の使用では効果が低く現れることが多いのです。長期間連用して初めて効果的な数値が得られるのです。
フッ化物配合歯磨剤を見分けるのはどうしたら良いのでしょうか?
記載の無いものもありますが、ほとんど「フッ化物入り」・「フッ化物配合」などと書かれています。
見分けるためには、チューブや箱に記載されている薬用成分表示に目を通す事です。フッ化ナトリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化第一スズなどの記載があればフッ化物配合歯磨剤です。日本では、大人用の8割、子供用の9割がフッ化物配合歯磨剤です。型もペースト状、液状、泡状があります。
また、フッ化物濃度の高いもの(1000ppm近く)と低いもの(100ppm程度)がありますがフッ化物濃度の高いものは、低いものよりむし歯予防に有効です。予防効果は、口腔内に残留するフッ化物濃度に左右されますので、濃度が高ければ、よりよい再石灰化につながります。では、低いものはどうかといいますと、これはこれで、うがいのできない乳児に使用できます。子供の成長・状態に合わせたものを使用する事が必要です。
フッ化物配合歯磨剤の使用にあたり、濃度・量・1日の使用回数などどれくらい用いればよいのでしょうか?
フッ化物配合歯磨剤は1,000ppmに近いものが理想です。
しかし、吐き出すことの難しい乳幼児(1〜2歳児)には、フッ化物濃度が100ppmと低い泡状あるいは液状スプレータイプを使用する様にします。歯磨剤1回の使用量の目安は、6ヶ月〜3歳未満の子で0.25〜0.3g、3歳〜6歳未満で0.3〜0.5g、6歳以上で0.5〜1gです。0.3gは歯ブラシの3分に1程度が目安です。使用回数は3歳未満で1日1回、3歳〜6歳未満で1日2回(就寝時と食後できれば2回以上)、6歳以上は、歯磨きをするときは常に使用します。その他に、むし歯予防効果を高めるため、①うがいは2回程度にとどめる。(うがいし過ぎない)②歯磨き後は30分は飲食はしない。③継続的にフッ化物配合歯磨剤を使用する、などです。
フッ化物配合歯磨剤を洗口できない子供に毎日使用し、少量飲み込んでも害はないのでしょうか?またどれくらいなら大丈夫なのでしょうか?
歯磨剤にフッ化物が入っていなくても飲み込むものではありません。
歯磨き中に飲み込んだり、歯磨き後吐き出してうがいができなかったりすれば歯磨剤は使用はしないほうが良いでしょう。個人差があると思いますが年齢でみれば3〜4歳以上が良いと思います。吐き出すことの難しい乳幼児(1〜2歳児)には、フッ化物濃度が低い泡状あるいは液状スプレー(レノビーゴ)を使用する様にします。この場合にはうがいはしません。
フッ化物を慢性的に飲み込んだときの副作用に歯のフッ素症がありますが、年月単位で過量のフッ化物を飲み込みつづけたときに発症します。また、歯磨剤の一回使用量は0.3g(フッ化物0.3㎎)で歯ブラシの3分の1ぐらいの量です。一日3回使用して、すべて飲み込んだ場合にはフッ化物摂取量は0.9㎎という計算になりますが、これは実際上は起こり得ないことです。歯のフッ素症に対する一日のフッ化物摂取安全量は体重1㎏あたり0.1㎎ですから、体重20㎏の5歳児では1.0㎎となります。
フッ化物配合歯磨剤の使用制限がアメリカでは、行われていると聞きますが使用継続しても大丈夫なのでしょうか?
アメリカでは、使用してはいけないなどという制限ではなく、6歳未満の子供の場合、えんどう豆大に使用量を制限し、歯磨き後のうがいをするようにと言う様な注意が与えられたというのが事実です。
アメリカでは多くの地域で、水道水フッ化物濃度調整によるむし歯予防が行われています。最近、米国では軽度の歯のフッ素症が増加してきているという報告があるのですが、その原因として子供がフッ化物配合歯磨剤を食べてします例が多いと指摘されているのです。水道水フッ化物濃度調整は丁度適量のフッ化物が摂取できるように調整してあるわけで、このような所では、フッ化物配合歯磨剤を子どもが飲んでしまうとフッ化物が過量になります。したがって、フッ化物配合歯磨剤の使用量の制限などによりコントロールしているのです。
日本では、水道水フッ化物濃度調整は行われておらず通常の使用方法でよいのです。しかし、自然の飲料水のフッ化物濃度が高い地域では、フッ化物配合歯磨剤の使用量の制限が必要になることが考えられます。
歯磨剤を使用いないように、とか、使用量を減らすようにとか言われることがありますが、フッ化物配合歯磨剤を使用した方が良いのでしょうか?
歯磨剤を使用いないほうがよいという意見には科学的根拠がありません。
歯磨剤は歯口清掃に効果的に働き、歯垢を取り、特に歯周組織の健康に効果をもたらします。また、フッ化物配合歯磨剤を使用することで有意な虫歯予防効果が期待できるのです。
最近の歯磨剤は以前と違い、歯肉炎・歯周炎の予防、歯石沈着の予防、むし歯の予防を目的とした成分が配合されていますので、セルフケアには重要です。
年に何回フッ化物歯面塗布をすれば良いのでしょうか?
効果を高めるためには、定期的かつ継続的にできれば、頻回行う事が良いのです。
一般には、間隔的には通常6ヶ月に1回ずつで、むし歯になりやすい人であれば、2〜3ヶ月に1回が望ましい事から、少なくとも年に2回、できれば年に4〜6回が良いでしょう。しかし現実には、むし歯になりやすいかどうかはきわめて予測が難しいため、年に4〜6回塗布をすることを推奨します。
新潟県のある自治体では、すべての児を対象に、生後10ヶ月児から2〜3ヶ月ごとにフッ化物歯面塗布を行い。その結果、むし歯にかかったことのない児の割合が、1歳6ヶ月児で77.1%から94.0%に3歳児で17.7%から51.5%に増加したという研究があります。
フッ化物歯面塗布はむし歯があっても効果的でしょうか?
むし歯があっても手遅れではありません。
むし歯になってない歯があるはずですし、むし歯の治療後の良好な予後のためにもフッ化物歯面塗布は効果的です。むしろ、むし歯にすでに罹っているのであれば、むし歯になりやすい児と判定されますので、年に4〜6回の塗布をすることが推奨されます。
口腔内細菌の酸によりカルシウムやリンが溶け出しますが(脱灰)、唾液によりカルシウムやリンが補われます(再石灰化)。この再石灰化にはフッ化物が必要であり、フッ化物は歯の質をより強化します。まだ穴の開いてない初期むし歯の前駆状態(CO)であればフッ化物歯面塗布法により健全な歯に戻す事が可能です 。
フッ化物歯面塗布を受けた際、どの様な点に注意したら良いのでしょうか?
フッ化物歯面塗布は、歯質強化を目的としフッ化物を直接歯に塗布し作用させる方法です。
この方法をより一層確実に効果的にする為に、①塗布する前は、飲食をすませる。これは、塗布後30分は効果を上げる為、飲食をさせないためです。②塗布を受ける前は、歯磨きをしておく。③「フッ化物を塗布した」と安心して気をぬかない。生活習慣(甘い物を摂り過ぎず、食後正しい歯磨きをする。)を正しく行う。④定期的に塗布を受ける、などを守ることが必要です。
フッ化物歯面塗布を受けた際、歯の白い部分が茶から黒に変色した。どうしたら良いのでしょうか?
フッ化物歯面塗布法には多種類有り、8%フッ化第一錫を使用した際、このようになることがあります。歯科医師へ相談してください。
黒い部分が、気になる方は歯科医師へ相談してください。最近では、フッ化第一錫はほとんど使用されなくなり、リン酸酸性フッ化物溶液またはゲル剤を用いますが、歯の変色はありません。また、乳歯のむし歯進行止めのために硝酸銀塗布をすることがあり、歯が黒変しますが、これはフッ素塗布ではありません。
毎日、フッ化物配合歯磨剤やフッ化物のフォームを使用し、さらに保健所でフッ化物歯面塗布をする必要があるのでしょうか?塗り過ぎと言うことはないのでしょうか?
フッ化物歯面塗布法には色々有り、特徴もそれぞれです。
理想は、年齢など考慮して種々のフッ化物応用法をうまく組み合わせることです。毎日家庭ではフッ化物配合歯磨剤や洗口剤、フッ化物スプレーなどを使用し、定期的に歯科診療所を訪れてフッ化物歯面塗布をしてもらうことです。これで定期歯科検診を兼ねて来院することができることになります。
わが国では、水道水フッ化物調整法や食塩のフッ化物調整、フッ化物錠剤などの全身応用法がなされていないので、その他のフッ化物配合歯磨剤やフッ化物洗口剤、フッ化物スプレー等の各種の局所的フッ化物応用の複合使用で、フッ化物の摂取過多が起こることはないといえます。また、フッ化物歯面塗布では、そのフッ化物濃度はフッ化物配合歯磨剤やフッ化物洗口剤の約10倍と局所応用法としては最も高濃度ですが、歯科医師とか歯科衛生士という専門家が行ないますので、フッ化物の摂取過多に対する心配はないと考えてよいでしょう。
なお、フッ化物の多重応用については、定期歯科検診の際に歯科医師に相談することをお勧めします。
大人になぜフッ化物歯面塗布をしないのでしょうか?
大人にもフッ化物歯面塗布をしないという事はありません。
実際、むし歯予防の進んだ諸外国では大人でも積極的にフッ化物歯面塗布を行っています。奥歯の溝や歯と歯の間、また、老人期では歯肉退縮による歯根部のむし歯、唾液分泌量の低下・減少の疾患のある方などはむし歯になりやすいのでフッ化物歯面塗布は、大変有効となります。
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